交わることはない、と固く思っているのに、しかもあんなに冷たい対応をしたのに、なぜだか彼らは毎日毎日私のもとへやってきた。
 朝は学校に着いた瞬間から三人で私を取り囲み、朝学習が始まる寸前まで、たわいのない世間話を持ちかけてくる。放課後も、終礼が終わると同時に教室を出て靴箱に向かう私を廊下で待ち受けている。いくら逃げようとしても、さすがに三人相手ではどうにもならない。春乃が私の腕をがっちりホールドして、冬哉と千秋が前後を固める。そしてそのまま、彼らの溜まり場となっているらしい裏庭へと連行されるのだ。
 なし崩しで付き合わされているうちに、いつの間にか放課後を彼らと過ごすのが当たり前のようになってしまった。
 裏庭は学校の敷地のいちばん奥、別館の裏手にあり、本館クラスの生徒は基本的に訪れることはないというのも、少し私の気を緩ませた理由だった。ここなら誰にも見られない、という安心感から、少しくらいなら彼らのサークル活動とやらに付き合っても大丈夫かな、と思ったのだ。
 今日も終礼直後に教室に現れた彼らに引きずられるようにして、自動販売機でジュースを買い込み、裏庭の真ん中に置かれている木製のテーブルとベンチに陣取った。
 春乃がいちごミルクを一口飲んで、ふいに「今日ねー」と眉を下げる。
「数Ⅰの授業で当てられちゃって、いちおう予習してたんだけど、分かんなくて空欄にしてたのが何問かあってね」
「ほう、それが当たっちゃったわけか」
 紅茶ラテをすすりながら冬哉が言うと、彼女は「そうなの!」とさらに眉を下げた。
「答えられなくてね、先生に『基本問題だぞ』って呆れられちゃった。数学はやっぱ苦手だよー、一学期も赤点ぎりぎりだったし……」
 春乃は「はあぁ」と溜息をついて頭を抱える。そういえば彼女は小学生のときも算数が苦手だった。
「冬哉が教えてあげればいいんじゃない?」
 確か彼は得意だったはずだと思い、グレープフルーツジュースのパックをたたみながらそう言うと、二人は同時に苦い顔をした。
「いや、それがさあ! 俺も前に教えてやろうと思ってやってみたんだけどさ」
「冬哉ってば、教えるのめっちゃ下手なの!」
「いやだって春乃、わけ分かんねえとこで引っかかってんだもん!」
「ほらー、自分が得意だから、できない人の気持ち理解できないんだよ」
 お互いに嫌そうな表情をしながらも、安心して軽口を叩ける親密さを感じた。
 二人は今でもこんなに距離が近いんだな、と思ってから、ふと動きを止める。全然気づかなかったけど、もしかして、付き合ってるんだろうか?