「たまたま街でユニフォーム着てるの見ただけだし……」
「へーえ、ふうん?」
「光夏ちゃんて、ちっちゃいころ、いっつも私たちのこと気をつけて見ててくれたよね。私よくからかわれたりしてたから、光夏ちゃんすぐ気づいて駆けつけてくれて……」
 春乃がにこにこしながら言った。冬哉が頷く。
「俺なんかよくケンカして光夏に怒られたなあ。でも止めてもらわなかったらもっと大事になってただろうな」
「うん、俺たちは、いつも光夏に助けられてた。すごく助けられてた」
 千秋が深く頷きながら、きっぱりと言った。
 でも私は、どんな顔をすればいいか分からなくて、俯くことしかできない。そんな昔のことを言われたって、困る。
 そのとき本館の生徒玄関が見えてきて、ほっとした。三人とはここでお別れだ。
「じゃ、私、単語テストの勉強したいから、行くね」
 私は三人に手を振って、玄関に続く階段へと足を向けた。
 そのとき春乃が突然、「光夏ちゃん」と私の手を握った。
「ねえねえ、今日みんなで一緒に帰らない?」
 私は一瞬目を見開いてから、静かに首を振る。
「……ええと、用事が、あるから……」
 もちろん今日も用事なんてない。でも、これ以上一緒にいるのは、自分にとっても彼らにとっても、いいことだとは思えないのだ。
 ちらりと三人を見ると、誰ひとり納得の表情は浮かべていなかった。
「ていうか、帰りは毎日、あの……」
 口から出任せでなんとかやり過ごそうとすると、千秋が「光夏」と私を呼んだ。
「光夏と一緒に帰りたい。帰ろうよ」
 喉の奥がぐっと苦しくなる。なんとか細く息を吐いて、私は首を振った。
「……ごめん」
 そのまま三人の視線を振り切って、振り向かずに階段を駆け上がった。