「ううん、大丈夫。痛くない」
「……よかった」
 千秋がほっと息をつく。それにしても、彼がこんなふうに力ずくで引き止めるのは珍しいと思った。来るもの拒まず去るもの追わず、という感じで、周りでなにが起ころうといつも静かに動向を見守っているタイプなのに。私の知っているころと変わっていないとすれば、だけど。
「……どうしたの?」
 だから、思わず訊ねてしまった。千秋がこんな行動に出るなんて、いったいどんな事情があるんだろう、と気になってしまったのだ。
 千秋はじっと私を見つめ、ふたつ瞬きをしてから、ふいに口を開いた。
「サークルを、作ろうと思ってて……」
「は!?」
 想像もしなかった単語が飛び出してきて、私は目を瞠った。
 すると春乃と冬哉も大きく頷きながら「そうそう!」と声を上げた。
「サークル! 楽しそうじゃない?」
「そういうのあったら高校生活充実しそうだなーって」
 呆れて声も出せない。あんなに真剣な顔をして話し込んでいたから、さぞ深刻な問題を抱えているのだろうと思ったのに、予想に反してずいぶんと楽天的な話をしていたらしい。
「でも、どうやったら作れるのか分かんなくて、難しいねーって」
「そうなんだよ。だから、しっかり者の光夏に相談に乗ってほしいというか、サークルに入ってほしいというか」
 どうしてそうなる、と突っ込みたい気持ちを必死に堪えて、「いやいや」と首を振った。