今日もまた、誰とも話さず、口を開くこともなく一日が終わった。放課後の始まりを知らせるチャイムとともに、ひっそりと教室を出る。
 そのまま靴箱に向かいかけて、そういえば今日が提出期限の世界史の課題があった、と思い出した。列の後ろから回収するとき、当然のように私だけ飛ばされてしまったので、自分で直接もっていかなければいけないのだ。
 四階まで上がって社会科準備室前の提出箱にノートを入れ、階段を下りようとしたとき、ふいに話し声のようなものがかすかに聞こえてきた。
 反射的にそちらへ目を向けると、廊下のずっと奥、いちばん端の空き教室の照明がついている。普段はほとんど人気のない場所だ。
 なんとなく気になって、踵を返す。ちょっと覗いて確認してみようと思ったのは、たまに先生たちの目の届かない場所で煙草などの良からぬことをしている連中がいる、と聞いたことがあったからだ。
 もしそうなら見過ごせない、と考えて足を動かしつつも、馬鹿だな私、と自分に呆れる。
 誰がなにをしていようと、自分に直接迷惑がかかるわけじゃないんだから放っておけばいいのに、島野たちの件で痛い目に遭ったのに、それでも自己満足の正義感を振りかざして、自分から首を突っ込んで。本当に馬鹿だ。
 でも、気になってしまったからには確認してみないと、すっきりしないし落ち着かないのだ。
 とりあえずちらっと見てみるだけ、どうするかはあとから考えればいい。