私は島野たちが普段から吉田さんをからかっていたのを知っていた。それでも彼女はいつもにこにこ笑って受け流しているように見えたので、苦々しく思いながらも黙っていたのだ。
でも、これはあんまりだ、と思った。こんな酷い仕打ちを目の当たりにして黙っているなんて、絶対にできない。許せない。
気がついたときには、私の手は大山の腕をつかんでいた。
「あんたたち、最低! 謝りなさいよ!!」
大山がぎょっとしたように目を見開いた。島野たちは眉をひそめて「あぁ?」と凄んできたけれど、怖さよりも怒りが勝った。私は激情のままに彼らを見回し睨んで、「みんな謝りなさいよ」と言った。
「今まで言ったことも、全部全部、ちゃんと謝れ! 吉田さんに謝れ!!」
そう叫びながら目を落とすと、彼女は弁当箱を握りしめながら俯き、肩を震わせていた。垂れた髪の間から見える耳や頬は真っ赤だった。
そのときの私には、彼女がなぜ赤くなっているのか分からなかった。怒りや悔しさだろう、と思っていた。
でも今思えば、あれは羞恥だったのだろうと分かる。私が「謝れ」と言ったことで、彼女は、自分が島野たちに馬鹿にされ傷つけられてきた現実を突きつけられてしまったのだ。きっと笑って受け流すことで見ないようにしていた、認めたくなかった現実を。
私は、失敗したのだ。人の気持ちが分からない――自分が傷ついているという事実を、弱さを、他人に知られたくないという繊細な気持ちが、理解できない人間だったから。
でも、今の私には、あのときの彼女の気持ちが、痛いほど分かる。
彼女に怒りがあったとしたら、島野たちよりも、私に対するものだっただろう。
島野たちは結局謝らず、悪態をつきながら教室から出ていった。
でも、これはあんまりだ、と思った。こんな酷い仕打ちを目の当たりにして黙っているなんて、絶対にできない。許せない。
気がついたときには、私の手は大山の腕をつかんでいた。
「あんたたち、最低! 謝りなさいよ!!」
大山がぎょっとしたように目を見開いた。島野たちは眉をひそめて「あぁ?」と凄んできたけれど、怖さよりも怒りが勝った。私は激情のままに彼らを見回し睨んで、「みんな謝りなさいよ」と言った。
「今まで言ったことも、全部全部、ちゃんと謝れ! 吉田さんに謝れ!!」
そう叫びながら目を落とすと、彼女は弁当箱を握りしめながら俯き、肩を震わせていた。垂れた髪の間から見える耳や頬は真っ赤だった。
そのときの私には、彼女がなぜ赤くなっているのか分からなかった。怒りや悔しさだろう、と思っていた。
でも今思えば、あれは羞恥だったのだろうと分かる。私が「謝れ」と言ったことで、彼女は、自分が島野たちに馬鹿にされ傷つけられてきた現実を突きつけられてしまったのだ。きっと笑って受け流すことで見ないようにしていた、認めたくなかった現実を。
私は、失敗したのだ。人の気持ちが分からない――自分が傷ついているという事実を、弱さを、他人に知られたくないという繊細な気持ちが、理解できない人間だったから。
でも、今の私には、あのときの彼女の気持ちが、痛いほど分かる。
彼女に怒りがあったとしたら、島野たちよりも、私に対するものだっただろう。
島野たちは結局謝らず、悪態をつきながら教室から出ていった。