「なんか昔に戻ったみたいだな」
「うん、懐かしいねえ」
 冬哉の言葉に、のんびりと答える春乃、静かに頷く千秋。
 彼らは至極当たり前のように――まるで昨日もおとといも去年も、今日までずっと、あのころと同じように四人で一緒にいたかのように、平然とした様子で私に向き合っている。
 なんだか、私まで錯覚に陥りそうだった。今こうしていることが自然なことで、これからもずっとこうしているのが当然のような。
「すごく、嬉しい」
 千秋が無垢な眼差しを私に向け、花の蕾が綻ぶような声で言った。本当に心からそう思っている、というような顔で。
 それを見た瞬間、私には無理だ、と思った。私は彼にそんなふうに言ってもらえるような人間ではない。昔のようになにも怖れずに真正面から三人を見つめるなんて、できるわけがない。
 私はもう昔の私ではないから。彼らの知っている私ではないから。
 今の私を、彼らに、千秋に――見られたくない。
 私は、一度は緩みかけた唇をぐっと引き締め、視線を下に向けた。
「ねえ、光夏ちゃん。あのね……」
 春乃がなにかを言いかけたそのとき、背後から騒がしい集団が近づいてくる気配がした。
 振り向かなくても分かる。“あいつら”だ。
 背筋が寒くなった。この三人と一緒にいるのを、絶対にあいつらに見られるわけにはいかない。
「あのね、お願いが――」
 私は春乃の言葉を遮るように軽く手をあげ、勢いよく歩き出すと、その横をすり抜けた。
「あっ、光夏! 待て……」
「光夏ちゃん、待って!」
 冬哉と春乃の声が背中に突き刺さる。肩が震えそうになるのを必死に堪えた。
 そして、二人の後ろに黙って立っていた千秋の傍らを通り過ぎる。すれ違いざま、囁くような、なぜか泣きそうにも聞こえる声が、ぽつりと言った。
「光夏……」
 私は顔を背けて彼の瞳から逃れ、小声で三人に「ごめん、急いでるから」と告げて、小走りに教室へと向かった。