明日の君が、きっと泣くから。









潮見渚(しおみなぎさ)さん、お時間です」

 名前が呼ばれ、うっすらとまぶたを開ける。
 見上げると、そこには鎌を振り上げる死神の姿があって、俺は場違いに笑った。
 三、二、一……〇。
 時計の針が七月二十四日午前〇時を指した瞬間、鎌の刃先が俺の心臓をひと突きした。
 潮見渚の人生は、こうして幕を閉じたのだった――。



































【七月十七日、水曜日。今日はそこそこ天気が悪い】

 薄ねずみ色のたゆたう雲を眺めながら、俺――潮見渚は辟易(へきえき)としていた。通い慣れた高校の屋上で全校集会にも出ず、こうして腕を枕に空を見上げている(さま)は、他の生徒に比べて間違いなくはみ出し者に見えるだろう。
 ため息をつくと、自分の胸の辺りに鼓動を感じる。虚空(こくう)に向かって腕を伸ばせば、自由に空気を掴めた。
 こうして身体を機能させるために、俺たちは息を吸いご飯を食べてエネルギーを蓄える。そのエネルギーを使って、身体を動かすだけじゃなく人との関わりにも消費することが億劫だった。
 人間関係のコミュニケーションも生きるために必須なのだと思うと、世の中にはやらなければいけない面倒なことばかりが存在すると思った。
≪来週末から長期休みに入りますが健康や安全には気をつけて、くれぐれも我が校の名に恥じないよう学校の外でも秩序と誇りを持って生活するように≫
 マイクから聞こえてくる校長先生のやまびこのような声を鼻で笑った。学校外での振る舞いを心配する前に、学校内に隅々まで目を向けてからそんな話をしてほしいものだ。
 俺はタイルにつけていた背中を起こし、遠くの空に向かって大きなあくびをした。
 こうして全校朝礼をサボって屋上にいるのももう何度目だろうか。最初の頃はもちろん先生から怒られたし、屋上の扉はきっちり施錠されてしばらく出入りができなくなったこともある。今では職員室で管理されているものとは別に清掃室にある鍵にも屋上の鍵がついていると知って、勝手にそっちを拝借しているけど。
「あーあ。死にてー……」
 なんて独り言は日常茶飯事で、今に始まったことでもない。息を吸うようにわりとその言葉をつぶやいている。
 いつも染めていると勘違いされる地毛の茶髪をかきながら、俺はのそのそと立ち上がった。バレないよう屋上の柵越しに全校朝礼の様子を眺めていたら表彰式なるものをしていた。
 どこかの部活がなにか賞をとったのだろうか。あえて口には出したくないけど、熱中できるなにかを持っているのはうらやましいものがあった。
「写真部から、二年四組牧瀬帆波(まきせほなみ)さん。このたび、全日本写真展で見事入賞を果たしました」
 ギクリと肩が跳ねた。視線を移すと、とある女子生徒が艶のある黒髪を後ろになびかせて壇上の前に歩いていく。表情は見えないものの、きっと涼しげな顔をしているに違いない。






 しなやかな白い腕は慎ましい仕草で表彰状を受け取り、コンパスのように細く長い脚は軽やかな動作で地面の上を進む。
 目鼻立ちのよい顔立ちは、その恵まれたスタイルに見合っていた。いつ見ても華のある彼女はどこにいたって誰かの視線を集め、よくも悪くも目立つ。ただでさえ気が強そうな見た目をしているのに、滅多に笑わないからたびたび誤解されていた。
「……少しは愛想笑いしろよな」
 なんてつぶやいたって、彼女には伝わらない。
 生きるためには……いや〝うまく生きるため〟には多少なりとも愛嬌があったほうがいいだろうに。もったいない。
 昔はもっと笑顔のあるかわいい女の子だった。
 牧瀬帆波は幼稚園からの腐れ縁で、家も隣同士。さすがにクラスは違うけど学校も同じだから、幼馴染という言葉が一番わかりやすい関係だ。
 だけど、ここ数年ろくに話をしていない。会おうと思えば会える距離にいると、改まってふたりで話そうなんてシチュエーションには滅多にならなかった。
 幼馴染というのも、もはや微妙な距離かもしれないな。
 表彰式の様子をぼんやりと見下ろしていたら、彼女が不意にこちらを見上げた。思わず後ずさって、そのまま足元に腰をつく。
 びっくりした。まさかこの距離で、こっちに気づいたわけじゃないだろう。
 そう納得したくても、心臓の音がうるさかった。周りの音はぼやけているのに、耳の奥に張りついているみたいに心音だけがはっきり聞こえる。あまりに激しい音に、このまま死んでしまうんじゃないかとさえ思った。
「あー……」
 息を吐き出しながら声を発する。彼女のせいでとんだ不整脈だ。
 汗がじんわりにじみ、ポケットの中に手を突っ込む。そうしたら、しわくちゃのレシートが出てきて、俺は持っていたペンでなんとなく彼女の名前を書いた。
【牧瀬帆波】
 こんな漢字だっけと薄目で字を眺めたあと、なんとなくその下に自分の名前を並べてみる。
【潮見渚】
 字面だけだと、お互いなんの変哲もない。なのに俺たちの間は天と地ほどの差が離れている。そんなふうに感じているのは、もしかしたら俺だけなのかもしれないけど。
 年齢も同じ、学校も同じ、家も隣同士で、こんなにも似たような環境で育っているはずなのに、俺たちはなにひとつ似ていない。この不公平な世の中で、まさに彼女は俺の何十、いや何百歩も先を歩いていて、絶対に手の届かない距離にいた。
 彼女にはなにがあって、俺にはなにが足りないのか。真面目に考えたところで無意味な話なのに、俺は昔から他人と自分を比べて生きていた。
【すきだ】
 書くことをためらった。けどどうせ捨てようとしていたしわくちゃなレシートだ。それに俺からすれば一生言うつもりのない言葉なのだから、名前の間に薄く小さく書いたって罰は当たらないだろう。
 意図せず手紙のようになってしまったが、これは誰に宛てたものでもない。自分の中でただ消化したいがために文字にしただけだ。
 それにしても下手な字だ、と高く掲げたら、太陽の光で透け、裏に印字されているレシートの字が見えた。『すき』という文字はレシートの文字に紛れ、もうどこにも見えなくなった。


 破いて捨てようとした瞬間、風が強く吹いた。ビッと指から引き抜かれるようにそのレシートが屋上の空を舞う。
「うわっ……ウソだろ……っ!」
 慌てて腰を上げ、風に飛ばされた紙を追いかける。ギリギリのところでフェンスの隅に引っかかり、急いで手を伸ばした。
 頼む、それ以上飛ばないでくれ。最悪なことに名前まで書いたそれが下に落ちて誰かに読まれてみろ。最悪なんて言葉で済むものか。
 あんなものをこっそり書いていたと誰かに知られてしまうなんて一生の恥だ。噂が瞬く間に広がって、俺はもう二度と表を堂々と歩けなくなるかもしれない。
 悪いことばかりが頭をよぎって、顔から血の気が引いた。その上、想像以上に隅のほうにレシートが引っかかっているので、いくら手を伸ばしても届かない。
 仕方ない、と柵を手で掴み、足も引っかけて乗り越えてしまおうと考えた時、柵の端で金属の外れる音がした。
「は……?」
 そちらを見てすぐ、身体が柵と一緒にぐらりと前に崩れた。
 マジかよ、フェンスが外れたんだ。もろいとは思ってたけど、まさかすぎる。これは、やばい。死ぬ。
 そう悟った瞬間、脳裏に自分が胸を押さえて苦しんでいる映像がやけに鮮明に流れた。走馬灯とはまた違うそれは映像というにはリアルすぎて、今まさに体験しているかのようだった。
 映像の中の俺は必死にもがき、のた打ち回り、そうして動かなくなっていく。
「えっ……なんだ今の……?」
 混乱したまま顔を上げたら、一瞬止まった時間が再び動き出すようにフェンスがそのまま屋上から落下しようとしていた。
 ダメだ、落ちる。
 ひねりもない言葉が頭の中に明滅し、いきなり人生が終わる瞬間って大したこと考えられないんだな、と呑気に思った。
 ひやりと腰が冷え、膝から力がなくなっていく。それでも頭の中は冷静で、あれしとけばよかった、これしとけばよかったと後悔が次第に押し寄せてきたと同時に思い出したのは、牧瀬帆波の姿だった。
 ああ、せめてレシートくらい処理させてほしかった、とあきらめかけたその時。
「予定にないこと、しないでくださいよ」
「は? ……ぅ、わっ!? ……ぐっ!」
 突風が俺の身体を後ろに突き上げた。身体をタイルに打ちつけながら、腕の皮が擦り剝ける感覚がした。
「いっ、てえ……っ」
「そんな痛み、死ぬより大分マシだと思いますが」
 さまざまなことが唐突すぎて軽く混乱したままの俺に、さらに追い打ちをかけるように頭上から鷹揚な声が聞こえた。







 今度はいったいなんだ……っていうか、誰だ。
 声の主を探すと、その人はにっこりと人当たりのいい笑顔を作ってこう挨拶した。
「はじめましてこんにちは、死神です」
 白いキャソックのような服と長いストラを身につけて、死神というよりも聖職者、もしくは天使のような、人畜無害な顔をした妙な男は格好にそぐわない丸眼鏡を人差し指の甲で上げていた。
「あ、あんた……誰?」
 二重幅の広い眠そうな目に、高すぎず低すぎずな鼻、少しだけ上がった口角と色白な肌。ひとことで言えば童顔だ。一見、中学生……いや、高校生くらいにも見える。
 ただ話し口調も相まって、意外と年を取った大人というふうに見えなくもない。とにかく年齢不詳だ。
 丸みを帯びたクリーム色の明るく短い髪がどこか取っつきやすそうな印象を与えるが、そのみょうちきりんな格好と男のいる場所が空中なものだから、どこかファンタジー感が否めない。というか、この状況が現実なのかさえ疑わしいんだが。
「申し遅れました、僕は千々波(ちぢわ)といいます。一週間後、あなたの命を狩ることになっている死神兼死後案内人です」
「し、死神ぃ?」
 眉間に深くシワを刻み、俺は大きく首を傾げた。その不思議な男の後ろではなぜかフェンスも元通りになっていて、何度か目を瞬いたあと、思いっきり自分の腕の傷を叩いた。
「いっ……た!」
「わざわざ確かめなくても現実ですよ」
 そう言って、死神と名乗った男――千々波は俺の前まで近づいてくる。
「なんなら、あなたの生涯経歴を述べましょうか?」
「生涯経歴……?」
 眉根を寄せたまま続ける俺に、男は指を動かし半透明の青みがかった紙を宙に出すと淡々とそれを読み上げた。
「潮見渚。七月二十四日、午前三時二十五分。早産児として生まれ、心臓に疾患を抱える。家から徒歩七分ほどの『すみれがおか幼稚園』に通い、そのまま『鹿木原(かぎはら)小学校』、『鹿木原中学校』へ順調に進学するも、疾患が進行し入院。適度な運動さえ制限がかかり、退院した頃には身体の自由度が下がる」
 ちょっと待て、いったいどこまで筒抜けなんだ。
 余計なことを話される前に制止しようと思ったが、事務的に動く男の口は止まらなかった。
「高校は徒歩三十分圏内の『浜辺野(はまのべ)高等学校』に進学。現在は高校二年生。血液型はAB型。星座はしし座。母親は小学校四年生の頃に他界し、現在父親と大学三年生の兄と三人暮らし。好きなものは特になし。嫌いなものは不公平なこと。幼い頃からの想い人は、同級生の牧瀬ほな――」
「な、なんっで!?」
 遮るように大声をあげれば、男はその優しげな笑みを深めて「だから言ったでしょう?」と指を立てた。
「死神ですって」
「…………」
 とてもじゃないが俄かに信じがたい。しばし思考を停止させたあと、俺は口元を引くつかせた。
「もしもそうなら、なんだ。あんた、俺を殺そうってのかよ」
「まあ、結論はそうです」
「じゃあ、なんでさっきわざわざ助けたりしたんだ?」
 だって命を狩りに来たなら、フェンスごと俺を突き落としてしまえばよかったじゃないか。
 訝しい目でじとっと見上げれば、男はにっこりと表情を崩さずに続けた。
「ああ、それは今日があなたの死亡予定日ではないからですよ」
「は?」
 いったい、どういう意味だ。
 首を傾げた俺に、死神は目を半円に保ったまま人差し指を立てる。
「あなたが死ぬ正確な日付は、今日から七日後のちょうど〇時ぴったりの時間になります」
「え……どういうことだ?」
「困惑するのも仕方ないです、最初は皆さんそうですから」
 さも世間話でもしているようなものの言い方に、少々腹が立った。
 俺の理解が追いついていないのを察しているはずなのに、どうしてもっと待ってくれようとしないんだ。
「わけがわかんないんだけど……え? 死神って寿命とか関係なく目の前に現れるものなのか?」
「二パターンですね。死ぬ瞬間に命を狩りに行く死神と、事前に予告をしてあげる死神と。最近の死亡システムは特殊なので、こういった手法をとる死神は珍しくないんです」
「し、死亡システム……?」
 まったく不釣り合いなニュアンスだ。死亡とシステムがくっつくだけでこんなに違和感が働くものなのだろうか。






「人の魂には後悔を引きずるものが多いですからね。あなたたちの世界で言う〝浮遊霊〟を僕たちの世界では〝浮遊魂〟と呼ぶのですが、死ぬ前の後悔が尾を引けば引くほど悪霊になりかねないんです」
「それは、まあ……」
 人の未練や怨念がその土地の地縛霊や怨霊になってしまったなんてよくテレビとかで聞くけど、まさか本当にいるとは思っていなかった。いやでも、それがいったいどう関係があるっていうんだ。
「最近は人口増加の影響で、天界の魂の受け入れ口はほとんど空きがありません。だから死期がズレてしまってはこちらとしても困るので僕はあなたを助けたのです。こちらの世界も常に人手が足りない状況でして、悪霊の処理にあまり時間を割けません。だから生きているうちに先手を取りましょうってことで、死期の事前報告が最近システムとして導入されているんです」
 人口増加って死後の世界まで影響しているのか。世界はどこへ行ってもつながっているんだな、なんてまさかこんなところで思い知るとは。
「で、でも、それでなにが変わるっていうんだよ?」
「事前宣告をすることで、その人の後悔や未練を減らすことが可能なんです。残りの人生をなるべく効率よく過ごしてほしい、ということで事前宣告がこちらの世界ではひそかにブームなんですよ」
「ぶ、ブームって……」
 死後の世界でも流行りがあることに驚きだ。もしかしたら死後情勢たるものが存在しているのかもしれない。
「もちろん、リスクもあります。事前宣告によって死を受け入れてやり残したことができる、いわゆる精神が強い人間とは逆に、死に絶望する精神の弱い人間も多くいます。それでは怨念が溜まり逆効果になるので、その場合は事前宣告はせず当日にそのまま命を狩る流れになります」
 男はにっこりと細めた目を三日月の形に開くと、「だから本日は」と改めて俺に向かって距離を縮めた。
 パーソナルスペースを取るのが下手なのか苦手なのか、向き合うには近すぎる距離に身体を仰け反らせれば、男は構わず笑っていた。
「あなたがどちらの人間なのか判断しようと〝うつし世〟を訪ねていたのですが、予定外の事態が起きたので急遽、僕の力であなたを助けたわけです。ちなみに死神の力に触れた人間は、この世のものでないものまで見えてしまいます。だから、僕の姿がこうしてあなたの眼に映し出されているのも、力に触れてしまったからというわけですね」
 男のヘーゼル色の眼が人間離れしていて、近くで見ると必然的に気圧される。俺は少し後ずさりながら「うつし世?」と首を傾げた。
「こちらの世界の呼称です」
「へ、へえ……」
 独特な呼び方ってどこの世界にもあるんだな。
 顔を引きつらせたままうなずいたが、理解は追いついていない。
「他にわからないことがありますか?」
 わからないことだらけだ、と答えたかったが俺は首を振りつつ「あ」と口を開いた。
「じゃあ俺がさっき見たあの映像は……」
「あれはあなたが七日後に必ず迎える未来です。〝フェンスが外れて落下して死亡〟というイレギュラーな事故死を僕の力で助けたから、本来あなたがどう寿命を全うするのか、その映像が反動として視えたのかもしれませんね」
「でもその話、ちょっと変じゃないか? イレギュラーな死なんてあるのかよ。今死ぬのが俺の天命だったかもしれないじゃないか」
 これが運命なら、このまま見殺しにしてしまえばよかった話だ。肉体的な寿命を迎えずに理不尽な死を迎える可能性は誰しも隣り合わせにあるのだから。
「あなた、先ほどここで〝普段なら絶対にやらないこと〟をしませんでしたか?」
「えっ」
 背中を小突かれた気がして、肩がぎくりと揺れた。冷や汗がこめかみから流れ、目だけでぎくしゃくと屋上の隅を見た。もうあのレシートはなくなっている。
 誰しも人生で他人に見られたくない場面というのはあるだろうが、俺にとってそれはさっきの出来事になる。魔が差したとでも言えばいいのか。とにかく、あれはまさしく〝普段なら絶対にやらないこと〟だった。
「そういった気まぐれに左右されるほど人の命は軽く、あっけないものです。いつもはやらないことをやって大怪我をしたり、普段は通らない道を通って事故にあったり。今日に限ってはあなたも経験があると思いますが、選択と寿命は比例するものなんですよ」
「…………」
 妙に納得してしまう。人生は選択の連続だけど、ひとつ間違えたら命だって簡単に落とせる。目の前の道を開くも閉ざすも、自分の選択にかかっている。
「想いというのは、繊細に見えてとても強いエネルギーを持っています。あなたが彼女への想いを気まぐれに綴ったことで、時間軸が少々歪んだのでしょう」
「想い……って、ちょっと待て」
 聞き逃してしまいそうになったが、俺は目を見開いて男の姿を見上げた。口がうまく開かない。レシートがなくなっていたから、もしかしたら見られていないかもと一縷の希望を抱いていたのに。
「お、お前……見た、の?」
「不可抗力ですよ。たまたまこちらに来たらあなたがイレギュラーな行動をとっていただけです」
「なっ!」
 眉根を寄せた俺に男はくすくすと笑って、「彼女、美人さんですもんね」とからかうように小首を傾げた。できることならその顔面を眼鏡ごとぶっ飛ばしてやりたい。
「それに僕は、自分の担当には満足した人生を送ってほしいですからね」
「つまり、あんたが俺の寿命を七日引き延ばしたんだろ?」
「何度も言うように、こちらの世界で死期のズレた者の受け入れ口は残念ながらもう空いていません。本来であれば、あなたはもう七日生きる。それはあなたが生まれた時から決まっていることで、僕もそれを見届けたいと思っています」
 なんだかいいように丸め込まれている気がしてならない。どんなに死にたくても七日間は強制的に生きろとでも命じられているような気分だ。
「……勝手だな。俺としてはいい迷惑なんだけど」
「では七日後、あなたがもう一度同じ気持ちだったなら、僕は心から謝りますよ」
 男はそう言って、自分の心臓を押さえるように手を胸元に置いた。まるで皮肉られているよう。
 その七日後、俺の心臓は動いていないのかもしれないのに。……いや、実際に止まるのだ。あの脳裏に張りついた映像があまりにリアルだったのは、本当にこれから起こることだから。
 俺はあんなふうにのたうち回って、もがき苦しみながら死ぬのだろうか。後悔にまみれた姿で死んでいくのだろうか。
「でも、よかったです」
「……は? なにが?」
 現実に引き戻されるように遅れて反応をすれば、男が「うんうん」とうなずきながらひとりで納得していた。
「今の感じを見る限り、あなたは死期宣告をしても絶望するタイプではないみたいなので安心しました。まあ何年も観察してきた人間なので、予測はできていましたが」
 さらりととんでもないことを言われている気がして、俺はあきれながら腕を組んだ。
 もしかしてこいつ、性格悪いな。
「デリカシーないんだな、死神って」
「はい。多少なりとも死を受け入れている人間にそんな些細な気遣いをするのは無駄だとわかっていますので」
「…………」
 俺がもしも健康的で普通の人間だったら、この死神を許さないだろう。『ウソばっかり言いやがって!』と憤慨し絶望して、なにも手につかないに違いない。これから先の未来に希望を抱いて夢を見ている人間ならきっと、悲しみに打ちひしがれて当然だ。
「どうかされましたか?」
「いや、どうしようかなって。あと七日も」
「え?」
「だってほら、一週間なんて長すぎ。正直、今死んでもいいし」
 死ぬ覚悟なんてとうにできている。死ぬならさっさと死んで、自分を終わらせたい。誰かと比較して、そのたびに劣等感を感じるのはもう嫌だ。
 俺は、潮見渚という人生を終わらせたい。
「いずれこうなるんだろうなってそれなりに覚悟はできてたんで。……大体、後悔とか未練とか、俺には無縁なんだよ」
 思い残すことを晴らすための事前宣告なら、最初から生をあきらめている人間には無意味だ。
「死ぬつもりで生きてきた人間が、今さらなにをしたらいいんだよ」
「それは、あなた自身にしかわかり得ません。あなたがなにをよしとして、なにを許さず後悔してしまうのか、それは本人の心の中にしかないからです」
 肝心なところではぐらかす。いや、正論を説かれただけか。ヒントはそう簡単にくれないのもこいつの性なのか、それとも死神界のルールなのかは定かではないが。
「……そうかよ」
「むすっとしないでくださいよ。あと七日くらい、いいじゃないですか」
 にっこり笑って、まるで他人事の死神は宙を楽しげに回った。円を描くように揺れるストラが雲のように尾を引いた。
「死ぬつもりで生きてきたなら、最期くらい死ぬ気で生きてみてください」
「死ぬ気で……」
 男を見上げたせいで、俺の目に青い空が映った。くすんでいた視界に一気に光が入り込んだようにも思える。
「そうですね。ただ僕がヒントとして言えるのは、死後の人間は口を揃えて――」
 夏風が吹く。じりじりと熱い太陽が俺の肌を容赦なく焦がしていた。男はさらに宙へと浮き上がり、俺から距離を取った。
「もっと自分を生きたかった、と告げますよ」
 こんな広大な青空の下、その白い装いはやっぱり死神には似つかわしくないものだった。
「どうか、後悔のない七日間を過ごしてください」
 非現実的な光景が広がる中、現実的な言葉を突きつけられて、俺はそのまぶしさに目を細めた。





 後悔のない人生なんて本当に存在するのだろうか。いい人生だった、と誇れる人間なんてごくわずかに決まっている――。
 その日の午後はなんとも不明瞭な思考のまま過ごしていた。
 結局あの死神はなんだったのか、夢だったのではないか。そんなふうに思いながらも、あの男が言っていた『死神の力に触れた人間は、この世のものでないものまで見えてしまいます』という言葉は本当らしく、俺の視界にはどこかもやもやした、恐らくこの世にはもう存在していないものがたびたび映っていた。
 まあ、ただのもやつきであることが救いだ。俺はそんなに霊感がないのだろう。
 それにしても、『あなたは死にます』なんて宣言されても実感がわかない。生まれた時から心臓に疾患を抱えて生きてきた俺は、常に死と隣り合わせだったから、人より死に対する恐怖や焦りという感覚が麻痺しているのかもしれない。
 なにもかもが今さらに感じた。いっそ今、命を狩ってくれれば、悩み疲れずに済むんだけど。
 残りの日数、いったいなにをしたらいいんだ。例えば一年後、半年後、とかならまだなにか思いついていたかもしれない。それが一週間なんて、正直そんな微妙な日数ではなにも浮かばない。
 普段通りに過ごす……それでは生産性がないな。どうせ死ぬのだから、いっそ命を懸けられるような……。
『死ぬつもりで生きてきたなら、最期くらい死ぬ気で生きてみてください』
 不意に死神の言葉が頭をよぎり、首を振った。
 なんで、こんな言葉を思い出すんだよ。ああでもそうか。七日後よりも先に死んでやるというのはどうだろう? あの死神がイレギュラーな死を嫌がっていたのを思えば、勝手に死ぬことだって可能なはずだ。
 誰かに余命宣告なんてされて死んでたまるか。俺の終わりは、俺が決める。
 死神が俺に謝罪する姿が目に浮かぶ。
 せいぜい俺を生かしたことを後悔して、あの涼しげな顔を崩せばいい。俺は自分の意志で、潮見渚を終わらせてやる。最期くらい、〝死ぬ気〟で死んでやるよ。
 本日最後の予鈴が鳴る。俺は教科書の入っていないぺたんこのカバンを持ち、誰と会話を交わすわけでもなく教室を出た。そのまま昇降口に向かおうとした時、屋上の鍵を清掃室に返し忘れていることに気づいた。
 誰かにバレる前に戻さなくては。見つかってしまったら、きっと無駄な時間を食うだろう。その間に考えが変わる可能性だってゼロではない。大体、せっかく死ぬ気満々なのに、気分が削がれてしまってはうまく死ねそうもない。
 早足に廊下を歩いて、清掃室へ向かう。
 清掃室に出入りする人間は少なく、たまに見かけても外部委託されている掃除のおばちゃんかおじちゃんくらい。だけど用心に越したことはないので、俺は清掃室の扉をそろりと開けて、壁に設置された鍵かけのひとつに屋上の鍵を戻す。
 昇降口に引き返して廊下を歩いていたら、くすくすと女子生徒の笑い声が窓の外から聞こえた。
「ちょっとはおとなしくなるでしょ、これで」
 女子特有の高さとかすれた音が特徴的で、これは四組にいる木原明(きはらめい)の声だろうとなんとなしに思った。三組の俺からしたら隣のクラスなので、あの声をよく耳にしていた。
 窓の外に金髪の派手な姿の女子生徒が見えた。やっぱりだ。やたら目立つから見たくなくても勝手に視界に入ってくる。
 目が合うと軽く睨まれたので、俺は知らないふりをして顔を逸らした。面倒事はごめんだ。
 靴を履き替えながら、どこで死のうか考える。
 少し離れたところにある高架橋から川に飛び込むのはどうだろう。この時間帯は人通りが多そうだけど問題ない。最後くらい注目を浴びたっていいじゃないか。
 校舎を出て、しばらく無心のまま歩く。よく知った道をこうして眺めるのもこれで最後になるだろうが、正直どうでもいい気分だった。
 高架橋に向かう際、大きな川を挟む土手沿いの道を進む。
 こっち側まで来たのは小学校以来だな。
 緩やかな風が道脇に咲く野花を揺らしている。夕日の落ちる空に目を向けようと横に顔を向けたら、土手の少し下のところで制服を着た女の子がひとり、川のほうを向いて佇んでいた。
 虫襖色(むしあおいろ)のチェックスカートはうちの学校の制服だ。華奢な背中にかかる絹糸のような線の細い黒髪は、なでるように風に吹かれている。合わせて紺青色のセーラー襟が後ろに向かってなびいた。
 絵になるくらい綺麗な佇まいをした彼女になんだか心がざわついた。なぜなら、あの背中に見覚えがあるからだ。早く行こう、そう気持ちが急いても足が動かなかった。
 彼女は靴も履いておらず、ひざ下から足先まで薄汚れている。川の中に入ったのだろうかと思うほど、泥だらけだった。足元に置いてあるカバンは水浸しにも見える。
 彼女の身になにかが起こったのは確かだ。なのに、その後ろ姿は汚れた格好に似合わず凛としていた。ますます俺の胸は落ち着かず、ざわめきが止まらなかった。
 不意に彼女が振り返った。その瞬間、どうして俺は先を急がなかったのだろうと少し後悔した。
「潮見……?」
「牧瀬……」
 相手が俺の名前を呼ぶ。今さらごまかせるはずもないので、俺はそのまま彼女の名前を呼び返した。
 アーモンドのような形をした大きな瞳にはなんだか涙が溜まっているように光が集まっている。目を見張った俺に、彼女はハッと弾かれたように表情を引き締めた。
「なに、してんの」
「そっちこそ、ここ帰り道じゃないのに」
「なんだよ。まさかまた嫌がらせでもされてんの?」
 彼女がひとりで佇んでいる姿を見たのは一度や二度じゃない。こんなふうに学校外では初めてだけど、校内ではよく見かけている。そのたびに声をかけようかためらって結局できずじまい。どんな時も彼女は毅然とした態度を崩さないから、声をかける隙がどうしてもなかったのだ。
「なんのこと? されてないし」
「じゃあなんで――」
 いつもひとりでいるんだ。そう続けようとしてやめた。彼女は強情だから、きっと素直に首を縦に振らないだろう。
「ていうか潮見。すごく久しぶりに話しかけてきた」
「いや、お前が先に俺の名前を呼ぶから」
「先に気づいたのは潮見でしょう?」
 少し潤んだ目を隠すためか、牧瀬は前髪を払うようにして目元を指先で押さえていた。
 どんなに強がっても、やっぱり嫌なことに傷つかないわけじゃない。彼女の姿を前にして、俺は今まで彼女に手を伸ばしもしなかったことを後悔した。でもまた〝あの時〟のように拒絶されてしまっては成す術もないのだけれど。
「そこから私の様子を観察してたんじゃないの?」
「誰が。ただ、うちの制服きた女子が裸足でなんか変な格好してるなって見てたら、たまたまお前だっただけ」
 カバンを肩に持ち直しながら彼女から目を逸らす。夕日に視線を移せば、もう少しで沈んでしまいそうだった。鉛のように重そうな雲が遠くの空からこちらに向かっている。
 そうだ、今日は夕方から夜にかけて雨が降るという予報だった。早く行かなくては。どうせ死ぬなら天気のいいうちがいい。最期くらい縁起よく終わりたい。
 なのに足が動かない。俺はなにか彼女に言いたいことでもあるのだろうか。
「なにそれ、駆け寄って声をかけようともならなかったの?」
 その瞬間、なぜか死神の言葉が呼び起こされた。
『事前宣告をすることで、その人の後悔や未練を減らすことが可能なんです。残りの人生をなるべく効率よく過ごしてほしい』
 どうしてこのタイミングで思い出したのだろう。俺は……彼女にまだなにか未練があるのか。
 は、と息が止まり彼女の顔を食い入るように見つめてしまう。そんな俺に「潮見?」と彼女が首を傾げたので、咄嗟に口を開いた。
「あ、いや」
 彼女に対して後悔が生まれているだなんて……いや、そんなはずはない。後悔することなんてなにもない。ただ、手を伸ばせばよかったな、少しくらい手助けしてあげればよかったなと、うっすら思ったぐらいで別に……。
 振り払うようにして、「牧瀬さ」と口を開いた。
「自分が明日死にますって言われたら、どうする?」
「え? なに、急に」
「いいから。教えてよ」
 訝しげな顔をした牧瀬が、俺の顔を土手の下からこちらを見上げている。そして、少し間を空けたあと。
「……死なない」
 凛とした表情で短く告げた。やけに輪郭がはっきりした音に、俺は「え?」と間の抜けた返事しかできなかった。
「死なない、だってやり残したことたくさんあるもの」
「なに言ってんだよ、そうじゃなくて――」
「私は、後悔なんて残して死にたくない」
 まっすぐと見つめられて、ぎくりとした。まるで説得されているようで、どこか心が苦しかった。
「今のままじゃ死ねないのよ、私は」
 言葉の一つひとつに意志の強さを感じる。牧瀬帆波がいつもどこか地に足がついているように見えるのは、ぶれない信念を持って日々を過ごしているからだ。
 だからこそ、やっぱり彼女に会いたくなかった。いつまでもゆらゆらと定まらない生き方をしている自分が責められている気分になって居心地が悪かった。





「牧瀬は、強いな」
「え……?」
 そういった強さは俺にはない。自分にはなにもできない、可能性なんてなにひとつないと、あきらめ癖のついてしまった俺には。
「日が落ちきる前には帰れよ。このあと雨らしいから」
 彼女の顔をこれ以上直視していたら自分がどんどん惨めになる気がして、話を打ち切った。顔を背け「じゃあな」と踵を返してその場を後にする。
「……潮見?」
 首を傾げる彼女のことには気づかないふりをした。

 どこまでも続く鉛色の空をぼんやり眺める。どうせなら晴れた日に死にたかった。
 まあでも、死んだら一緒か。晴れた日に死のうが雨の日に死のうが。いつまで生きたか、なにをして生きたかも、死んでしまっては大して重要なことではない。行き着く先は結局同じなのだから、どうあがいても無駄だ。
「たっけー……」
 ここなら死ねるかな、と覗き込んだ高架橋の下は案外高くて、思わず独り言ちた。
 風が強く吹きつけるたびに、このまま落ちたら確実に死ぬんだろうなと、ただただ川の流れを眺める。
 人間はこんな単純な方法で簡単に死ぬことができる。飛び込んで、あの水面に身体を打ちつけた瞬間、俺の十七年はやっぱり大したものじゃなかったんだと改めて思い知らされるんだ。
 欄干に手をかけ、そのまま軽くジャンプしたあと足をかける。
 遺書でも書いておけばよかったかな。いや、いいか。別にわざわざ伝え残したいことなんてなにもない。
「潮見っ!!」
 途端、耳がつんざくような大きな声で呼ばれて背中がびくっとした。振り返れば、そこになぜか牧瀬がいる。空からはちょうどぽつぽつと雨が降り始めていた。
「っなにしてるのよ! そんなところで!」
 今度は先ほどと立場が逆だ。
 牧瀬の弾んだ息にすべてを察した。きっとただ事じゃないと、様子のおかしい俺を追いかけてきたんだ。その証拠に、彼女は裸足のまま荷物さえ持っていない。
「……お前こそ、まだ帰ってなかったのかよ」
 間を空けて答えれば、彼女はなにかを伝えたげに口を開いたあと、自分を落ち着かせるように静かに深呼吸をしていた。
「……なんで足かけてるのよ」
 どこか怒りも孕んだ低い声に俺はやっぱり気づかないふりをして「別に」と短く返す。言い訳なんてなにも思いつかなかった。
「なんで」
「だから別に」
「潮見!」
 音をぶつけるように名前を呼ばれる。牧瀬にはなにもかも筒抜けな気がした。
 もういい。はぐらかしても仕方ない。
「……飛び降りようと思って」
 どうごまかしても無駄な気がして、正直に答える。
「どうしてよ、雨降るから早く帰れって言ったのは潮見なのに」
「そうだな」
 ため息をつきながら遠くを眺めた。
「ねえ、なんでそんなところから――」
「死のうとしてんだよ」
 わかんだろ、と続けた俺は橋の下へ顔を逸らした。
「……俺たちはどうせいつか死ぬんだ。それが早いか遅いかだけの違いしかない。いつ死んでも変わらない命なら、今落としたって一緒だろ」
「なに言って……」
「最近さ、一日の価値を考えるんだよ。ここで努力したとして、その成果は結局どこに行くんだって。どうせ俺は早死にするし、心を奮い立たせたところで無理したら本気で疲れるし、冗談抜きで命も削る。そもそも頑張ることに意味を感じない」
 毎日真面目に一生懸命生きたとして、もし明日死んでしまったら? 積み重ねてきた努力も水の泡になるって話。この世は不平等で理不尽で、さっさと終わらせたくなる。
「今日死のうが明日死のうがなにも変わらないんだったら、死にたい気分の時に死にたい場所で、自分にとって最高のタイミングで死んでおこうってだけ! 悪くないだろ」
 顎先を上げて、フンと鼻を鳴らす。この世のすべてを最高にバカにしている気分だった。
 牧瀬の反応は、わざわざ見なくても予想がついた。彼女のことだから、あの冷静な顔つきで、なにを言おうか気を遣って躊躇したあと、困った目をしながらこちらを見ているに違いない。
「潮見が死んで、悲しむ人がいたらどうするの……?」
 ほらきた。やはり真面目な牧瀬らしく、まっとうで綺麗事に聞こえる言葉を投げかけてきた。
 あまりに想像通りで、思わず鼻で嘲笑う。
「将来なんの見返りもない、お荷物な俺の死を本気で悲しんでくれる人がいるとは到底思えないけど」
 ぽつぽつとまばらに降っていた雨は、だんだんと勢いを増していた。
「つか、今の時点で生きる意味も特に感じられないしー――」
 手に今一度力を入れて、今度こそ欄干の上に乗ろうとした瞬間、思いっきり肩を引かれた。それがあまりにも突然で、体がよろめき地面に背中から落ちてしまった。小さな砂利が肌を傷つける。
 なにが起きたのかと状況を理解しようと見上げた先には空があった。そこから覗き込むように彼女が現れたと同時に、なにかが破裂したような大きな音がそこら中に響き渡った。
「しんっじらんない……っ」
 思いっきり頬を叩かれたのだと把握したのは、彼女に胸倉を掴まれて上体が少し浮いた頃だった。
「信じらんない信じらんない。なんでそんなこと……! あんた、自分がなにを言ってるかわかってんの!? ガキみたいなマネするんじゃないわよ!」
 雨音が強くなり、目の中に雨粒が数滴入り込んだ。俺は鈍くなった視界で、彼女の顔がまともに捉えることができずにいた。
「潮見はいったい今までなにを見て、なにを感じて生きてきたんだよ!! あんたと私が出会ったことさえ死んだら無駄だって言ってるの!?」
「っまき――」