「いい店だったなあ」
「うん」
「こんな賞金までもらっちゃって。また行かないとだな」
「ふふっ」

 店を出て歩きながら話していると、麻友が奇妙な事を呟いた。

「ねえたっくん。私達、殺されてしまうかもしれなかったって言ったら、どうする?」
「へ!? なにそれ?」

 麻友の唐突な言葉に、卓也が素っ頓狂な声で聞き返す。

「私ね、ちょっと前に街頭アンケートに答えたの。ちょっとたっくんの不満を愚痴るような答えでね。そしたら賞金と命をかけてゲームをしませんか、って」
「何だそりゃ。それでお前、そんなコワイ話に乗ったのか」
「うん。だってそんなの冗談でしょ、普通。お金欲しかったし」

 麻友はそう言うとくすくすと朗らかに笑った。

「そうは言っても嫌だろ、もしなんかあったら……っておい……後ろ」
「もう、なーに? そんな青い顔して……え」

 麻友の話を受けて何気なくチラと店を見やった卓也が、すぐに引きつった顔で麻友を呼び、後ろを指さした。ないのだ。店がない。重厚な存在感のあの店が、すっかり消えてしまっていた。

「え、うそ……」

 さっきまでの笑顔を顔に貼り付けたまま、麻友はただ雑木林が茂るだけのその風景を見てへなへなと座り込んだ。
 
「おいおい、しっかり。とにかく帰ろう! こんなとこ居たらヤバい!」
「う、うん」
「帰って、なんか飲んで落ち着こう。それくらい俺やるから。ああ、もう外食はしばらくトラウマだよな」
「うん、私も。アンケートがまず無理かも」
「……アジフライ、また頼む」
「……うん」

 ふらふらの麻友を卓也が支えながら、二人は徒歩でわずか数分の異世界を後にした。

 卓也の瞳には、単調な毎日(ブラインド)で覆われ見えなくなっていた麻友が今、確かに映っていた。