本当は空腹だけれど、前回のファミレスでの会話を思い出すと、ミドリと仲良く食事をする気にはなれなかった。
 ミドリは、店員にポテトフライを追加注文してメニューを閉じた。
 食事が運ばれて来ると、ミドリは私の前にポテトフライを置いた。

「え?」

 戸惑いながらミドリを見る。

「自分だけだと、食べ辛いから」

 ミドリはサラリと言い、スパゲティをフォークに巻き付けた。その様子を見ながら、私もポテトフライに手を伸ばす。

「……いただきます」

 適度に塩の効いたそれは、想像以上に美味しかった。

「それで……話って何?」

 二つ目を口に運びながら問いかけると、ミドリはフォークを動かす手を止めて私を見た。
 浮かない表情。良くない話なのかもしれない。

「近い内に兄の居場所が分かりそうなんだ……だから、一緒に居るだろう雪香も見つかると思う」

 私は驚き大きく息をのんだ。

「どうしてお兄さんの居場所が分かるの? 連絡が来たの?」

 ミドリのお兄さんには子供も居るから、家を出たもののやはり心配になって連絡して来たのだろうか。

「いや、兄からは何の連絡も無い」
「それならどうして居場所が分かるの?」

 本人からの連絡無しで今更見つかるとは思えない。
 雪香の行方だって、義父が調査会社まで使って探しているけれど、未だ手がかりも掴めて無いようだし。

「……警察が兄を探し始めたんだ」
「え?」

 私は困惑してミドリを見た。
 どうして警察が動くのだろう。雪香が消えた時義父が警察に相談したけれど、積極的に探してくれる様子では無かったそうだ。
 本人の意志で居なくなった可能性が高い場合、警察はなかなか動かない。
 大人の男であるミドリの兄は、更に探して貰える可能性は低いのに。

 怪訝な顔をする私に、ミドリは憂鬱そうに息を吐いてから話を続けた。

「兄が会社の資産を横領していたと発覚した……それで警察が動く」
「……横領?!」

 ミドリの言葉は衝撃的だった。だって、二人は、不倫をして逃げたと思っていたのに、まさか、犯罪と関わっていたなんて……。

「驚いただろ? 家も今大騒ぎだ」

 良く見るとミドリの顔色は悪く、目の周りにはクマが出来ていた。
 かなり疲れているように見える。

「……お兄さんはどうして横領を?」

 お兄さんさんの事は何も知らないけれど、身内のミドリと秋穂をみる限りお金に困っているようには思えなかった。むしろ裕福な家だろうと。