母にとりなして貰いたいと思った。助けて欲しい、そう目で訴えた。

「沙雪、そんな人相手にしないのが一番よ、次に何か言われた時はあなたも無視しなさい」

 母は気まずそうな顔をしながら、義父と同じ発言を繰り返すだけだった。

 落胆しながら、雪香の家を出てアパートへの道をのろのろと歩いた。
 最後の望みに母を頼ったけれど、何の手助けもしてもらえなかった。
 
 私がどれだけ困ってるかは、ちゃんと伝えたはずなのに。
 雪香が困っていたなら、きっと必死になって助けるのだろう。
 同じ娘でも、母にとって雪香と私の間には大きな差が有るんだと再確認するはめになった。

 重い足を引きずるようにしながら、今後について考えた。
 このままでは、二百万払うしか無い。
 でも私の全財産は二百万円。海藤に払ったら全てを失ってしまう、絶対に嫌だ。

 どうして私がこんな目に……。
 雪香に消えて欲しいと願った罰なのだろうか。
 気弱になっているせいか、私らしくもなくそんな考えが浮かぶ。

 考え込みながら歩いていたら、いつの間にかアパートにたどり着いていた。
 外階段に近付こうとした私は、そこに人影が見つけ緊張して足を止めた。

 長身の男……まさか海藤?
 胸が苦しくなった。逃げ出したいのに動けない。
 立ち尽くす私に気付いたのか、男は振り返り近付いてきた。

「沙雪……」

 気まずそうな顔で、名前を呼んで来たのは蓮だった。
 私は襲って来ためまいに耐えるように、きつく目を閉じた。
 蓮は私の目の前に立つと、躊躇うような素振りを見せる。

「……久しぶり、元気にしてたか?」
「何か用?」

 私は力無く蓮に言う。
 蓮とは喧嘩別れしていて、もう関わるのは止めると決めていた。こんな風にアパートに来られるのは迷惑としか思えない。けれど、今の私に蓮と言い争う気力は無かった。
 何の用か知らないけど、早く済ませて帰ってもらいたい。
 鬱々とした気持ちで返事を待つ私に、蓮は真剣な表情で思いがけない発言をした。

「この前の事……謝ろうと思って来た」
「謝るって……」

 私は、驚き呆然と呟いた。鷺森蓮の口から、私への謝罪の言葉が出るなんて信じられない。

「喧嘩別れした日から、ずっと考えてた。何で沙雪があんなに怒ったのかって……それから雪香のことも考えた。俺が雪香の為と思ってして来た行動は、自分本位で間違っていたのかもしれないって考えるようになった」