今の精神状態では、誰にも会いたくなかった。
 奥の部屋に進むと、私はホットカーペットの上に力を無くしたように座り込んでしまった。
 ミドリとのやり取りでもショックを受けていたけれど、海藤の登場は比較にならないくらいの衝撃だった。

 雪香が消えてから様々な人と出会って嫌な目にも会って来たけれど、これほどの恐怖を感じたのは初めてだった。
 時々蓮を怖いと思ったけれど、海藤への恐れは全く異質のもので、情けないけれど私では立ち向かうなんて絶対に無理。

 私は、バッグからスケジュール帳を取り出した。
 理不尽さに腹が立つけど、雪香を探すしか私が安全を手に入れる方法は無い。
 スケジュール帳を捲り目当てのページを開くと、着替えもせずに次々に電話をかけ始めた。


 翌日から、あらゆる人に連絡を取り必死に雪香を探した。
けれど、今まで見つからなかった雪香が、私一人の力で見つかるはずが無かった。
 五日経っても何の手がかりも無く、私は限界を感じていた。もう自分ではどうしようもない。気は進まなかったけれど、雪香の実家を訪問した。
 
 私の訪問に、雪香の義父は露骨に嫌な顔をした。
 歓迎されていないのが伝わって来たけれど、遠慮している場合じゃない。

「雪香の借金の件で、話が有るんです」

 挨拶を済ませるとすぐに本題を切り出した。

「雪香は借金なんてしていない、君は何を言い出すんだ?」

 義父は表情を険しくして私を見据えた。隣に座る母も、不審そうに私を見ていた。

「実際に雪香にお金を貸していたと言う人が居るんです」

 私は必死に海藤の件について説明したけれど、義父は頑なな態度を崩さなかった。

「そんな人間相手にする必要は無い。雪香が借金をしたという正式な書類も出せないような奴だ。君も何を言われようが無視すればいい」
「そんな! 無視なんて出来ません。海藤は暴力的で私は脅されたんです。放っておいたら何をされるか分からないんです」

 声を高くする私に、義父は顔をしかめ、面倒そうにため息をついた。

「それは君の問題で私には関係無い」
「関係無いって、元々雪香のせいでこんな事になってるのに?!」

 義父の言葉にカッとして、私は思わず身を乗り出した。

「話がそれだけなら、もう帰ってもらえるかな? 何を言われても私は金を出す気は無い」

 冷たい目で見据えられ、私は助けを求めるように母を見た。

「お母さん……」