私を追い詰めるように言う海藤の雰囲気は普通じゃなくて、本能的な恐怖を感じた。

「……借金っていくらなの?」

 穏便に済ませたくてそう聞くと、海藤は口元に薄い笑いを浮かべながら言った。

「二百万」
「二百万?!」

 私は衝撃を受け、高い声を上げた。まさかそんな大金だとは思わなかった。
私に肩代わり出来る訳が無い。雪香は本当に、そんな大金を借りたのだろうか。
 あんなに立派な家に住んでいた雪香が、どうして借金なんか……。

「おい! 代わりに払うのか?」

 考え込んでいた私は、海藤の声に、我に返った。

「私はそんな大金持ってません。本当に雪香が借りていたと言うなら、雪香の両親に話してみて下さい」

 あの家なら、二百万位すぐに出せるはず。

「それは駄目だ。あんたが返せ」
「どうして? 雪香の家ならお金持ちだし、すぐに解決するはずでしょ?」
「あの家を相手にするのは、いろいろとまずいんだよ。あんたに何とかしてもらう」

 雪香の父親に絡むのは、危険と言うことだろうか?だから何の力も無い私の方に来た?
 海藤の狡さに唖然とした。

「でも高額過ぎて、私には払えません」

 私の言葉に、海藤は元々細い目を更に細めた。機嫌が悪くなっていくのが分かる。

「金を出せないなら、雪香を探し出せ」
「そんな! どうして私が? そもそもお金を借りたのは雪香で私は関係無いのに」

 命令するような海藤の口調に、抑えていた怒りが表に出てしまった。

「関係無い? 雪香はお前の名前を使ってたんだぞ?! 関係無いなんて言い訳通用すると思うのか」

 海藤の大声に、私は体を固まらせる。そんな私に海藤は近付いて来ると、腕を掴み顔を近付けて来た。

「一週間待ってやるから、雪香を見つけるか金を用意しろ」

 骨が砕けるんじゃないかと言う位の力を入れられた上に、海藤の口からする得体の知れない臭いにゾッとして何も言えなくなった。
 ただただ恐怖しか感じなかった。

 海藤が帰って行った後、私はアパートの階段をフラフラと上がった。
 部屋の前で、鍵を取り出そうとバッグを開けたけれど、いつもの場所に見当たらない。
 イライラとしながらバッグの中をかき回す。
 やっと見つかって取り出していると、隣の部屋の玄関で物音がした。
三神さんが出かけるのだろうか。
 私は急いで鍵を回しドアを開けた。玄関に入ったと同時に、三神さんの部屋のドアが開く音がした。