現実的に考えて、絶対に無理だと思う。けれどミドリは、首を横に振り否定した。

「出来たんだ、兄達は秋穂の行動を把握していた。まあ、それでも初めの一回だけは沙雪に手紙が渡ってしまった……沙雪は気にも留めなかったみたいだけどね」

 思いがけないミドリの話に、私は驚愕した。手紙が来た事なんて有った?
 必死に過去の記憶を探るけれど少しも思い出せない。

「秋穂……ごめん黙っていて、でも兄の件で傷付いている秋穂に追い討ちをかけるようで真実を言えなかった。本当は言う気は無かったんだ」

 ミドリは非難を込めた目で私を見た。
 その態度が不快だった。だってどうして私が、そんな目を向けられなくてはいけないの?。

「彼女を慰めるのは後にして。次の質問だけど、歩道橋で私を突き落としたのも秋穂さんということでいいの?」
「沙雪、それは本当に違う。そんな大胆な行動にでた人間が、いつまでも手紙なんて送ると思うか?」

 ミドリは、直ぐに否定して来た。
 確かにその通りだ。それに、もし危害を加えるとしたら仕事帰りなど行動が予測出来る日を選ぶはず。でそれなら一体、誰があんなまねを?
 考えても分からない。仕方なく質問を変えた。

「今、お兄さん達がどこに居るのか本当に知らないの?」
「知らない、兄から何も聞いてなかったし連絡も無い……本当だよ」

 ミドリの話が本当か分からない。だけどこれ以上聞き出しても無駄だと気付いた。

「分かった、もういい。質問は終わりだけど……緑川秋穂さん」

 名前を呼ばれたからか、秋穂はビクッと顔を上げた。

「あなたも被害者なんだろうけど、その後の行動ははっきり言って最低だと思う。陰険な手紙送ったり、今だって義弟の陰に隠れて、謝りもしないけど反省はしてないわけ?」
 
 秋穂の顔が紅潮した。屈辱を感じたのか、私を恨むように睨んでいる。
 完全に逆恨みだ。

「沙雪、言い過ぎだろ!」

 ミドリが秋穂を庇うように言って来たけれど、すぐに言い返す。

「どこが? 言い足りない位だけど。ミドリはこの人が大切過ぎて客観性が無くなってるんじゃないの?」

 大切な……と言うところを強調して言うと、ミドリは動揺したように、目をそらした。
 
 さっきから思っていたけれど、ミドリは秋穂に義姉以上の感情を持っている気がする。
 それが今の反応ではっきりとした。目の前の二人に無性にイライラとした。