翌日。いつも通りに出社した私は、派遣会社の営業担当に呼び出された。
 用件は派遣契約更新の意思確認だ。

 私の担当は四十歳くらいの大柄な男性。彼は営業は大袈裟な程の笑顔を浮かべながら言う。

「最近、お仕事はどうですか? 何か困ってる事ありませんか?」
「いえ、特には……」
「それは良かったです。では問題無しということで、更新継続でよろしいですか?」
「はい。あの、直接雇用になるという話はどうなっていますか?」

 入社する際、半年問題なく働いたら直接雇用に切り替える場合もあると言われていた。

「社員登用の件ですね。今のところ企業様からの申し出はありませんね」
「……そうですか」

 難しいだろうとは思っていたけど、はっきり駄目だと言われると落胆する。
 派遣社員の給料はそれなりだけど、いつ契約を切られるか分からない。
 私は一人暮らしで頼れる人もいないので、安定した仕事に就きたいからこのまま派遣として働くのは良くない。でも転職はなかなか難しい。
 平日は仕事で就職活動が出来ない。かといって仕事を辞めたら、収入が無くなり生活が立ち行かなくなる。
 貯金はいざという時の為にとって置きたいし。ああ、もっとお金が有ったら……。

 久しぶりに、雪香との嫌な記憶が蘇った。
 約一年前に父が亡くなった時、遺産と言えるものは殆ど無かった。
 元々病気がちで高額な保険には入れなかったし、入院生活が長かった為貯金も使ってしまっていたからだ。
 葬儀後に残ったお金は、掛け捨ての保険からおりた二百万円のみ。
 受取人は法定相続人となっていたから、私と雪香で半分に分けた。

 見苦しい態度を取りたくなかったから何も言わずに雪香に渡したけれど、内心は納得出来ずに不満が募った
 ずっと父と暮らし入院生活のフォローをした私と、顔も見せに来なかった雪香が、どうして同額なのか。
 突然現れて、当然のようにお金を受け取る雪香を厚かましいと感じた。
 しかも雪香は私よりずっと裕福なのに。

 でも……雪香はもしかしたら、今あの時のお金を使っているのかもしれない。
 一緒に居るであろうミドリのお兄さんも、突然失踪したのだとしたら、まともに働いているとは思えないし。
 あの立派な家から飛び出して、今頃幸せに暮らせているのか……少しだけ気になった。