「あっ、すみません。私の手紙、三神さんのポストに紛れちゃったんですね」
「それはいいんだけど……倉橋さん、最近はこの辺りも物騒だし、もし何か困ってるなら遠慮無く言ってね。隣同士なんだし」

 三神さんは心配そうな顔をしている。敬称無しの宛名を変に思っているのだろう。

「あっ……ありがとうございます」

 なんとか笑顔を浮かべて会釈をした。
 彼は優しい人だ。隣の住人に過ぎない私を気遣ってくれるのだから。
 だけど事情を話す訳にはいかない。

 まだ何か言いたげな三神さんを残し、私は急ぎ自分の部屋に入り、鍵とロックをしっかりかけた。
 居間の電気のスイッチを入れ、着替えもせずに手紙の封を切った。

 中身は以前と変わらない白い紙が一枚で、短い中傷の言葉が印刷されていた。

「ミドリ……何考えるの?」

 思わず、呟きが口から零れた。
 でもいくら考えても答えが出る訳がない。諦めて手紙をチェストに仕舞った。

 ミドリに連絡をしようかと考えたけれど、私は彼の連絡先を知らない。
 この前会った時、もう二度と会うことはないだろうと、アドレスすら聞かなかった。
 ミドリへ連絡するには、蓮に間に入ってもらうしかない。その蓮とは、ついさっき言い争ったばかり。頭を下げてお願いするなんて絶対嫌だ。
 今のところ手紙が来るだけで害はないし、ミドリの新なアクションを待つしかないか……。

 気持ちを切り替えて、シャワーを浴びようと支度をしている途中、音楽が聞こえて来ることに気がついた。
 重厚感有るクラッシック。どこかで聞いた記憶は有るけれど、曲名までは思い出せない。

 音の聞こえて来る方向に目を向けた。壁の向こうは三神さんの部屋だ。気付いていなかったけど彼はいつもこの曲を聞いていたのだろうか。
 流れる音楽がやけに頭に残った。