「それは、蓮に近寄るなって何度言っても聞かないからよ。私が責めると何も言い返せないで小さくなってたくせに、決して蓮から離れようとしなかった……かなりイライラしたわ」
「本当に?」

 私の中の雪香のイメージとミドリが語った雪香の姿。そして今、凛子の話す雪香が同一人物とは思えなかった。まるで別人のよう。どれが本当の雪香だったのだろうか。

「……最終的に雪香とは決着がついたの?」

 相変わらず私を睨んでいる凛子に尋ねる。

「はっきりとけりがついた訳じゃ無かったけど……でも半年位前からリーベルに顔を出さなくなったから諦めたと思ってたのよ」

 半年前は、ミドリの兄と別れ、直樹と婚約した頃だ。
 やはりその時期に雪香に何か変化が有ったのは、間違い無さそうだった。

「ねえ、二人が争ってるのを鷺森さんは知ってたの?」

 私の言葉に反応して、凛子は表情を変えた。

「名字で呼んでるの?」
「そうだけど」

 私と蓮の間が、大して親密では無いと判断したのか、凛子は少し警戒を解いたようだった。
 結構単純なんだなと思いながら凛子の言葉を待つ。

「蓮は知らなかったんじゃないかな、何も言ってなかったし」
「何も言わないって……」

 自分を取り合って二人の女が争っていたのに、気付かないものだろうか。
面倒で無視していたのか、どうでも良かったのか……でもあの雪香への執着を 考えると、無関心とも思えないし。

「悪い、待たせたな」

 蓮の声がしたのと同時に、凛子が顔を輝かせ近付いて行った。

「蓮!」
「凛子? 来てたのか」

 蓮の方は大した反応をしない。

「最近会ってくれないから……それよりどうして雪香の姉を連れて来るの? 私を放って何やってるの?」

 凛子は拗ねたような上目遣いで蓮を睨む。いきなり痴話喧嘩になるのかと半ば呆れて見ていると、蓮は全く取り合わず、私に視線を向けた。

「凛子には関係無いだろ……沙雪帰るぞ」
 
 信じられない。彼女に対する態度としては許されないレベル。

「その言い方は無いんじゃないの? あの人、鷺森さんの彼女なんでしょ?」

 蓮は煩わしそうに、舌打ちをした。

「お前には関係無いだろ?」

 蓮は人の気持ちってものを考えないのだろうか。雪香と凛子が険悪でも、こんな態度だったの?