「……そういえばお前、足を痛めてたな」

 蓮は、二度目に会った日の私の様子を思い出したようだ。

「それ以外は?」
「特には」
「そう……提案なんだけど、沙雪は住まいを変えた方がいいんじゃないか? 宛てがないなら僕がセキュリティのしっかりした家を紹介するよ 」
「気を使ってくれるのは有り難いけど、その話は遠慮します」
「どうして? 危ない目にあったんだし、用心した方がいい」

 確かにミドリの言う通り不安はある。雪香が騙していた人達の中には、たちの悪い人も居たみたいだから。
 それでも、ミドリに頼って引っ越しをする選択はなしだ。私は彼まだ信用していない。

「今日初めて会った人にそこまでしてもらうのは……心配してくれたのは嬉しいけど……」

 はっきりとは言い辛く、言葉を選んでいたのに「お前が信用出来ないからだろ」と、蓮が空気を読まない発言をした。
ミドリは不快そうに顔を歪める。

「ちょっと! そんな言い方ないでしょ?」
「違ってないだろ? だいたい俺には迷惑だとか信用出来ないとか、ズバズバ言うくせに、なんでコイツには気を使うんだよ?」
 
 子供のような蓮の言い分に、私は内心溜め息を吐いた。

「相手を見て言い方を決めてるだけだけど。気を使ってくれる相手には私だってそれなりの対応をするの」

 反論出来ずに顔を強張らせた蓮から、正面のミドリに視線を移した。

「言い方は悪いけど、この人の言う通りで、正直あなたを信用出来ない……今日会って悪い人じゃないとは思ったけど」
「信用出来ないのは、初対面だから?」

 ミドリは、静かに聞き返して来る。

「手紙の件も引っかかってる。私に警告してくれるのなら、普通に会いに来てくれたら良かったのに。わざわざあんな手紙を送って来るなんて、他に何か意図が有るのかと疑う」

 それに私は、もう簡単に人を信じないと決めている。

「確かに、沙雪の言う通りだね。おかしな行動と思われても仕方ない……でも僕としては意味の有る行動だったんだ」

 言い訳をするようで気まずいのか、ミドリは居心地が悪そうに、ソファーに座る体勢を何度も変えた。急に落ち着きなくなったみたい。どうして?

「手紙を送ったのは、沙雪の反応を見たかったからなんだ。そもそも沙雪が雪香と繋がってないという確証も無かったからね」
「繋がってるって……私が名前を使われるのを、黙認していたと思ったの?」