「俺がお前に話をつけに行った時、なんで言わなかった?」

 蓮の発言に、ミドリは薄い笑いを浮かべた。

「言っても信じないと分かっていたからね。君は雪香の言い分を鵜呑みにして、最初から喧嘩腰だっただろ?……カッとしやすいみたいだけど、少しは冷静さを持つようにした方がいいんじゃないか?」

 馬鹿にしたように言われ蓮の目に怒りが宿る。それでも図星だったのか、ふてくされたようにそっぽを向いた。

 ミドリに会いに行った時の、蓮の様子が想像出来る。彼は思い込みが激しくて行動力も有るようだから、怒りのままミドリを問い詰めたのだろう。
 私と初めて会った時も、雪香の失踪に私が関わっていると決め付けて、かなり攻撃的だった。
 ミドリの言う通り、何を言っても無駄と思えた。

 私が同意見であると察したようで、ミドリは満足そうな表情をした。

「沙雪は僕の気持ち、分かってくれたみたいだね」
「まあ……」

 控えめに頷くのと同時に、蓮が睨んで来る気配を感じた。

「それでミドリは雪香に、お兄さんに妻子がいる事実を伝えたんでしょ? その後二人は別れたの?」
「いや……」

 ミドリは一端言葉を切り、眉間にシワを寄せた。

「お互いの嘘が発覚した後もすぐには別れなかった……むしろ二人の絆は強くなったようだった。それまで遊びでしか無かった雪香の態度も大きく変わったように見えた」
「でも結局別れたんでしょ? 雪香は直樹と婚約したんだし」
「別れたよ。兄の妻に気付かれてしまったから……そして、別れてすぐに佐伯直樹と婚約した」

 別れてすぐに婚約した? 雪香は直樹との結婚を逃げ道にしたの?
 そんな理由で、私は裏切られ傷つかなくちゃいけなかったの?
そんなことって……。

「沙雪大丈夫?」

 ミドリの気遣うような声が聞こえて来る。私は平静を装いながら頷いた。

「別れたのなら、お兄さんと雪香はもう何の関係も無いんでしょう?」

 つまり、ミドリも雪香の失踪に関わっていないんだ。振り出しに戻ってしまい、私は重い溜め息を吐いた。

「いや、そうとも言えないかもしれないんだ」
「どういうこと?」
「兄の行方も分からないんだ……雪香と同じように消えてしまった」

 ミドリの低い声が、静かに部屋の中に響いた。

「……雪香は、あなたのお兄さんといるの?」