部屋は八畳程の広さで、中央には三人掛けのソファーがガラステーブルを挟んで向かい合わせに配置されていた。
 そのソファーの中央に、俯き座っていたミドリと思われる人物が顔を上げた。

 私は驚愕して息をのんだ。
 だって……この人がストーカーミドリだなんて。
 雪香の友達はミドリに悪い印象を持っていたし、脅迫的な手紙を出すなど行動も相当気味が悪い。
 でも実際のミドリは、気持ち悪いストーカーのイメージからかけ離れていた。

 モデルのようなスタイル。洗練されたファッションは遠目でも人目を引きそうだ。
 明るいブラウンの少し長めの前髪の間から覗く目は綺麗な切れ長で、すごい美形。
 直樹よりも蓮よりも、容姿が整っている。
 こんな人が女性に不自由するとは思えない。それなのになぜストーカーなんて?

 用意して来た言葉を出すのも忘れ呆然としていると、ミドリの形の良い口が動いた。

「沙雪」

 まるで恋人を呼ぶような、甘さを含んだ声に体が震える。
 すぐに答えない私に代わり、蓮が凄みある声を出した。

「その名前どこで知った?」

 蓮の迫力を目にしても、ミドリは怯まず口元に笑みを浮かべた。

「ずっと前から知ってるよ……沙雪、手紙読んでくれた?」

 ミドリの美しい目に見つめられ、心臓がドキリと跳ねる。

「手紙って何だ?」

 ミドリは鬱陶しそうな顔をした。

「君には関係無い、またしゃしゃり出て来て、本当に人の邪魔をするのが好きだね」
「あ? お前、いい加減にしろよ」

 蓮が怒りを込めた目でミドリを睨む。けれど、彼ははそれを無視して私に言った。

「沙雪、そんな所で立ってないで座りなよ」
「え?……うん」

 二人のやりとりを口を挟めず見ていた私は、戸惑いながらもソファーに座った。
 蓮は不満そうに顔をしかめながらも、私の隣に並んで座る。

「……手紙の差出人って、やっぱりあなただったんだ」

 本当はもっと厳しく追求するつもりだったのに、口から出た声は小さく、迫力のかけらも無かった。
 出だしから調子を狂わされたせいかもしれない。
 それに、まさかあっさり認めるなんて思ってもいなかったから、こんな展開想定していなかった。

「そうだよ、あの手紙驚いただろ?」
「驚いたって言うか……」

 ミドリの問いかけに、私は言葉を濁してしまう。
 怖くて、気持ち悪くて、最悪だった。そう言えばいいのに、強気な発言が出来なかった。
 ミドリの雰囲気が私は苦手だ。なぜか彼のペースにのまれてしまう。