私も母と行きたかったけれど、打ちひしがれる父を目の前にして、そんなことは言えなかった。

 私まで母について行けば、父はひとりぼっちになってしまう。
 幼かった当時、私は本気でそう思った。
 けれど、あの時自分の気持ちのままに行動していたら、雪香と私の立場は逆だったのかもしれない。
 何不自由無いお嬢様として生活し、直樹の妻になったのは私だったかもしれない。
 そう考えると、やりきれない気持ちになった。
 私の暗い嫉妬心は際限無く膨らんでいき、いつの間にか雪香さえ居なければと思うようにまでなっていた。


――消えて欲しい――


 ウェディングドレスを着た美しい雪香を目にした瞬間、今までに無いくらい強くそう願った。

 過去に想いを馳せている間に義父の話は終わっていたようで、親族達が部屋から次々と出て行った。
 義父と母も、私の隣を通り過ぎ後に続く。母は青ざめており、私をチラリとも見なかった。
 虚しさを覚えながら、私も部屋を出る為立ち上がる。
 そのとき、か細い声で名前を呼ばれた。

「沙雪」

 私はゆっくりと声の方を向き、途方にくれたように立ち尽くす直樹に素っ気なく返事をした。

「何?」
「何って……雪香のことを相談したくて」
「相談されても、私は役にたてないと思うけど」

 冷たく答えると、直樹は不快そうに顔を歪めた。

「その言い方は冷た過ぎないか? 妹が行方不明になったって言うのに、心配じゃないのか?」

 声を荒げる直樹への、苛立ちが大きくなった。

「警察に連絡するって話だから、見つかったら連絡が来るでしょ」

 これ以上直樹と話していたら、感情的になりそうだった。

「私、もう帰るから」

 立ち去ろうとすると直樹は慌てた様子で、私の手首を掴んで来た。

「何?」
「雪香を探すんだ! もしかしたら何か事件に巻き込まれたのかもしれない。警察だけに任せてないで、君も出来ることをやれよ」

 責めるような直樹の言葉は、私の心の傷を更に深くする。
 底なしの闇に沈んで行くような気持ちになった。

 こんなに無神経な人だっただろうか?
 二年間真剣に付き合い、そして裏切った恋人に向けた言葉とは、とても思えなかった。
 もう私に対する優しさや気遣いは、何一つ見られない。
 それどころか、私に家族としての役目を強要しようとしている。
 自分がどれだけ残酷な発言をしているのか、本気で気付いて無いようだった。