機嫌の悪い男と車内という密室に二人きりなんて居心地が悪すぎる。
 蓮は私を横目でチラッと見てから、怠そうに口を開いた。

「なんでミドリと会う必要が有るんだ?」

 私は思い切り顔をしかめた。

「聞きたいことが有るからだって言ったでしょう? ……まさかやっぱり会わせないって言う気?」
「それは俺が変わりに聞いて来る。何が知りたいんだ?」
「……は? 何言ってるの?」

 さっき約束したばかりなのに。お母さんの前では、いい顔していたくせに、私と二人になった途端これ?

「そんな提案受け入れられない。約束を破る気?」
「連絡しないとは言ってないだろ? ただあんたはミドリとは会わない方がいい」
「どうして?」
「あいつが、どんな人間か知らないだろ? 危ない目に合いたくなかったら止めておけ」

 予想外の蓮の発言に、私は戸惑い口を閉ざした。

「あいつには俺が会って、ちゃんと話を聞いて来るから、何が知りたいのか話せよ」

 意外だけど蓮は私の身を心配している? ささくれ立った気持ちが、凪いでいく気がした。

「ミドリがストーカーなのは知ってる。それでも直接会って話を聞きたいの」

 意識した訳じゃないでど、私の口調はそれまでより軟らかになっていた。すると蓮の攻撃性も薄らいだ。

「あいつは異常な程雪香に執着していたんだよ。だから雪香と双子のあんたに会ったら何をするか分からない。用心のためにも、あんたの存在は奴に知られない方がいい」

 確かに蓮の言う通りだ。危険は出来る限り回避したい。でも残念ながら、私の存在はもうとっくに知られている。

「私は大丈夫だから、とにかく会わせて。 事情が有ってどうしても自分で会いたいから。もし私がミドリに何かされたとしても、あなたの責任じゃないんだし、そこは気にしないで」

 本当は心配してもらって少し嬉しかった。でも素っ気なく言った。
 ここで慣れ合ったら蓮は絶対について来ると言い出しそうだ。

「……なんでそこまでして雪香を探したいんだ? 雪香を恨んでいるはずだろ?」
「それは、どうしても確かめたいことが有るから」

 蓮はすっと目を細くした。

「その内容を教える気は無いってわけだ?」
「そう、言いたくない」

 流れる景色に目を遣りながら答える。

「なんで言いたくないんだよ? 俺が信用出来ないのか?」
「嘘ばっかり言う人は、信用出来ない」