「分かりました。でも会うときは俺も同行します、それでいいですよね」

 いいわけない。何でわざわざ付いて来るの?
 すぐに断ろうとしたけれど、母が勝手に了承してしまう。

「もちろんよ、ありがとうね蓮君」

 勝手に進む話にイライラしたけれど、拒否したところで蓮が退くとも思えない。
 納得いかないまま、私は母と蓮の話を黙って聞いていた。

 雪香の家を出ると、なぜか蓮が追って来た。

「……何か用?」
「送ってく」
「いえ、結構です」

 蓮とふたりで過ごすなんて苦行でしかない。
 さっさと駅に向かって歩き出したのに、蓮がしつこく引き止めて来た。

「待てよ、車で送っていくから、こっち来いよ」
「送ってくれなくていいですって言ってるんだけど」

 はっきり拒否しても蓮は全く怯まない。
 強引に私の手を引っ張り、雪香の家の隣に建つ純和風の家屋に向い歩き出した。

「ちょっと! 勝手なことしないでよ」

 この強引さ有り得ないんだけど。
 抵抗する私を見て、蓮は面倒そうな溜め息を吐く。

「話が有るんだ、そのついでに送る」
「話?」

 不審に思い蓮を見ると、蓮は真剣な表情になる。

「ミドリの件だ、聞いた方がいい」
「……ミドリの?」

 凄く気になる。だけど蓮と車で二人きりなんて危険としか思えない。でも……。

「変な真似したら許さないからね」

 私は蓮の話を聞くと決断し、強い口調で釘を差した。
 すると蓮は馬鹿にしたような薄笑いを浮かべる。

「安心しろ。あんたは完全に対象外だから」
「あ、そう。対象外で良かったわ」

 蓮はいちいち気に障る言動をする。絶対に仲良くなれない。

 彼の住まいは雪香の家よりも大きく、敷地には数台の車が止めてあった。
車に詳しくなくとも、エンブレムで高級外車だと分かる。
 蓮はその中で一番端に停められた黒の車に近付き、ドアを開けた。

「早く乗れ」

 偉そうな言い方にイライラしながらも、黙って助手席に乗りこんだ。
 シートベルトはどこだろう。普段車に乗る機会が少ないから、勝手が分からない。
 もたもたしている間に、蓮が車を発進させた。同乗者への気遣いはゼロ。
 文句を言おうと視線を向けると、不機嫌な横顔が視界に入る。
 彼も私と同じくらい苛立ちを感じている様子だ。おかげで車内は嫌になるくらい不穏な空気が漂っている。

「それで、話って何?」

 さっさと聞いて、途中でも降りてしまおう。