見覚えの有るそれらを、嫌な予感でいっぱいになりながら取り出し開く。

――お前を許さない――

 白い紙の中央に印刷された文字は、私に宛てられたあの手紙と同じものだった。
 背筋がぞくりと冷たくなる。
 しばらくの間呆然としていた私は、気を取り直し残りの紙を取り出した。

「……どうして」

 ふと気づいて封筒の宛先を確認すると、住所などはなく倉橋沙雪とだけ記載されていた。
 私のポストに入っていたものと全く同じ。どうして、これが雪香の部屋に?
いくら考えても理由は分からなかったけれど、一つだけははっきりと分かった。

 やっぱり私は、雪香の抱えていた問題に巻き込まれている。
 不安よりも苛立ちがこみ上げた。
 無関係の私を巻き込んだ雪香に対する怒り、状況が把握出来ないことへの苛立ち。
 もう……うんざりだ。
 私は自分宛の手紙をバッグに乱暴に押し込み、忌々しい雪香の部屋を後にした。

 階下に降りると、母が不安と期待の入り混じったような顔をして、待ちかまえていた。

「沙雪」
「あ……」

 気まずい思いで足を止めた。

「何か分かった?」
「ごめん、何も手掛かりは無かった」。
「そう」

 母は落胆して肩を落とす。

「ごめんなさい、役にたてなくて……私はこれで帰るから」

 玄関に向かおうとする私を、母は慌てて引き止めた。

「沙雪待って、もう少し居て欲しいの」
「え、でも……」
「沙雪、お願い……」

 早く帰りたいけれど、弱っている母を突き放せなかった。

「じゃあ、少しだけなら」

 私は母に促され、リビングルームに向かった。
 母は私にコーヒーを出すと、雪香の話を始めた。

「このままじゃ婚約破棄されるわ。雪香が戻って来たとき、どんなに傷付くか」

 母は苦しそうに嘆くけれど、私は共感できない。
 だって雪香が好きなのは鷺森蓮が好きなんだから。
 そういえば、彼の家は隣だと言っていたっけ。
 それも嘘かもしれないけど、念の為母に確認してみようか。

「お母さん、鷺森蓮って知ってる?」
「蓮君? 知っているわ、お隣だもの」

 隣に住んでいるのは本当だった。

「彼がどうかしたの?」
「……結婚式で話しかけられたの。雪香について聞かれたんだけど」
「そうね、蓮君も雪香を心配してるわ。兄妹のように仲が良かったから」
「そうなんだ……」

 母は雪香と蓮の関係を知らないようだった。

「そうだ、蓮君も呼びましょう」