そう言っても、母は血の気の無い顔を横に振るだけだった。

「雪香が出て行く訳が無いわ、あんなに幸せそうにしてたのに……何か事件に巻き込まれたに決まってるわ」

 母の様子を見る限り、雪香は実家にも連絡を入れてないようだ。
 どうして私にだけ電話をして来たのだろうかと、ますます疑問は大きくなる。私なんかより、雪香を心配している人は沢山いるのに。

「お母さん……何か手掛かりが有るかもしれないから、雪香の部屋を見たいんだけど」
「ええ、いいわ」

 母はあっさりと雪香の部屋に案内してくれた。
 私が雪香を探しているという事実に、喜び期待しているのか。
罪悪感で気持ちが重くなった。
 直樹も母も本当に雪香の身を心配している。それなのに、私は雪香からの電話について黙っている。私なりに理由があるからだけど、本当にこれで良いのだろうか。
 自分の行動に自信を失いはじめながら、雪香の部屋の扉を開いた。

 十畳程の広さの雪香の部屋は、モノトーンのインテリアで纏められていた。
意外に思いながら、部屋を見回す。
 勝手な思い込みだけれど、雪香はもっと柔らかで女性らしい雰囲気を好むと思っていた。

 まずは部屋の隅に置いてある机に近付き、手掛かりになりそうなものを探す。
 既に義父と母が確認しているだろうけど、自分の目でも確かめたい。
 
 今のところ雪香に関する手掛かりは三つだ。
 ストーカーミドリ、常連の店、そして鷺森蓮。
 一通り調べてみたけれど、有効な手掛かりは見つからなかった。
 次は本棚。小説が多く並んでいたが、端に数冊のアルバムを見つけ手にとった。

 部屋の中央の黒い革張りソファーに浅く腰掛け、静かにページを捲っていく。
 アルバムの中の雪香は、今より少しだけ幼い。二年位前だろうか。
 明るく輝くような笑顔の雪香は幸せそのもので、そんな彼女の隣には必ず蓮の姿があった。

 雪香が蓮を好きなのは間違いないだろう。
 それなのにどうして、直樹と結婚する気になったの?
 出会って間もなく……私から奪ってまで。
 
 一通り写真を見終えると、アルバムを本棚に戻す。そのとき奥の方に白い封筒が折れ曲がった状態で押し込められているのに気が付いた。

 何これ?……そっと引っ張り出してみる。
 封はされていないので中を覗くと、紙が何枚か入っていた。