雪香がよく出入りしていた店の名前を教えてもらい、そろそろ解散しようかという頃、直樹が席を外した。電話をしに行ったようだ。
 雪香の失踪に、ミドリは関係しているのだろうか。私にあの手紙を送って来たのも、彼なのだろうか。

「あの……さっきは彼が居たから言わなかったんだけど」

 躊躇いがちに声をかけられて、視線を上げた。ワンピースの女性が、直樹の歩いて行った方を気にしながら、話を続けた。

「雪香は沢山の人と付き合ってたけど、本命はずっと変わらず一人だったの」
「え?」
「雪香はその人をかなり好きだったみたいなんだけど、正式な彼女にはしてもらえなくて、それで自棄になったのか言い寄って来る男と付き合ってたの。まあそんなだからどれも長続きしなかったんだけど」

 雪香が片思いをしていたなんて、信じられなかった。皆に慕われ、直樹に一目で愛されたあの雪香が。

「その片思いの相手って誰なの?」

 私の問いに、二人は一瞬躊躇いながらも答えてくれた。

「同じ大学の先輩で、名前は蓮って言うんだけど……」
「蓮? もしかして鷺森蓮の事?!」
「そ、そうだけど知ってるの?」

 話を遮った私に、ワンピースの女性は戸惑ったように答えた

「……その人の事は雪香に聞いていたから」

 動揺を、なんとか抑え言ったけれど、心の中は蓮に対する怒りで溢れかえっていた。
 完全に騙されていた。幼なじみで兄妹のようなものだなんて、よく平気な顔で言えたものだ。
 あんな男の言葉を真に受けてしまったなんて、自分が許せなかった。

「じゃあ蓮が、さっき話した雪香の通っていた店で働いてるのも知ってた?」

 裕福だから働いてないんじゃなかったの?

「それは知りませんでした」

 怒りを抑えた低い声で、答える。


 直樹が戻って来てすぐに、私達は店を出た。

 二人にお礼を言い別れると、それまでにこやかだった直樹が重い溜め息を吐いた。

「そんなにショックだったの?」

 素っ気ない私の言葉が不満なのか、直樹は恨みの籠もったような目を向けて来た。

「当たり前だろ? 雪香の男関係の話を聞いたんだぞ、それも良い話じゃ無かったんだ」
「でも乱れてたのは過去で、今は真面目だって言ってたじゃない」
「そうだとしても簡単に割り切れる訳ないだろ?」

 直樹は苛立ち声を荒げる。私はその姿に少しだけ傷付いていた。彼がこんなに嫉妬深いなんて知らなかった。