直樹が怪訝な顔をすると、ワンピースの女性が困った顔をした。

「雪香は知り合いがすごく多かったから、私達も把握してないの……特に男関係は盛んだったし……」
「ち、ちょっと、止めなよ!」

 ノースリーブの女性が、顔色を変えた直樹に気付き、慌てたような声を出した。

「あ、あの……今のは学生の時の話で……」
「そう! 今は真面目だし」

 取り繕うように言う二人に、直樹は穏やかな笑みを浮かべながら言った。

「気にしなくていいよ、過去の話だし。それよりその中で問題になりそうな人は居なかった?」
「え……どうかな、今は付き合い無いみたいだったし……」

 二人は直樹の態度に安心したように、顔を見合わせ考え始めた。でも私は、直樹の表情が一瞬険しくなったのを見逃さなかった。 表面には出していないけれど、ひどく苛立っている。
 思いもしなかった、雪香の異性関係に動揺し怒っているのは明らかだった。

「そういえば!」

 ワンピースの女性が、思い出したように高い声を上げたので、私は直樹から視線を外し彼女を見た。

「何か思い出した?」

 直樹の問いかけに、彼女は頷きながら答えた。

「卒業間際に、雪香にしつこく付きまとっている男がいたんです」
「ああ、いたね……完全にストーカーだったよね」

 ノースリーブの女性も思い出したのか、顔をしかめた。

「ストーカー?」

 不穏な言葉に、直樹が固い声を出す。

「そうなんです……一時期、雪香を待ち伏せしたり、無視してもそのままつけて来たりで本当にしつこかった」

 卒業間際の事なら、まだ一年経っていない。でも私は雪香にそんな話を聞いた覚えが無かった。多分、直樹も……。

「そのストーカーはどうなったのか知ってますか?」

 二人は考えこむように首を傾げた。

「どうだったかな……気付けばいなくなってたって感じで」
「でも、ストーカーになるくらいの人がそんなに簡単に諦めるとは思えないけど」

 雪香は、一体どうやって追い払ったのだろうか。

「その男の名前は分かる?」

 黙って聞いていた直樹が口を開いた。

「知らないです、関わりたく無かったから……あっ、でも雪香はミドリって呼んでました」
「ミドリ?」

 私が聞き返すと、二人同時に頷いた。

「うん、そう言ってた」

 結局、ストーカーミドリについて、それ以上の情報は得られそうに無かった。