「お前……平気なのか?」
「話聞くだけなら平気になった。それよりあまり雪香に構ってないそうだけど、本当にいいの?」
「は? どういう意味だよ?」

 蓮は怪訝な目を向けて来た。

「だって……ミドリの話だと雪香は今大変みたいだから……直樹との破局も噂にもなってるみたいだし」

 ただの噂話と言っても、話題にされる本人は精神的に堪えるものだと思う。
 特に雪香の場合は、犯罪者と駆け落ちした挙げ句、元婚約者から訴えられてるんだから。
 そういった話は、人の関心を引きやすいし、真実からどんどん離れた内容で広がって行く。

 精神的に弱い雪香が平気でいられるとは思えない。
 いくら自業自得とはいえ、蓮は心配じゃないのだろうか。蓮の性格なら、こんな時こそ支えようと思いそうだけど。

「確かに雪香は今辛い立場だろうけど……」

 蓮は珍しく歯切れ悪く言った。

「でもいいんだよ、あいつが助けてくれって言って来たら手を貸すけど、何も言われて無いのに俺が先回りするのは止めたんだ。 過保護は雪香の為にも良く無いしな」

 蓮はミドリと同じようなことを言った。

「……雪香は頼って来ないの?」
「ああ、最近は仕事も始めたみたいだし、あまり見かけないな」
「雪香も自立しようとしているんだね……」
「ああ、お前に捨てられてからしっかりして来たな」

 捨てられたって……。

「そういえば、蓮は最近毎日店に顔出すよね? 雪香に構わなくて暇になったから?」

 蓮は気分を害したように、眉間にシワを寄せた。

「そんな訳ないだろ? 毎日来るのはただ……」
「ただ何?」

 蓮は少し躊躇った後、そっぽを向きながら言った。

「店の経営、今まで適当だったけど、これからは真剣にやると決めた。毎日来て、俺なりに勉強してんだよ」
「え……そうなんだ……なんか見直した」

 かなり意外だった。
 会ったばかりの頃は、働く必要無いからな! なんて言ってたのに。

「なんだよ、その顔!」

 蓮はなぜか照れてるようで、怒ったような口調で言った。
 全く迫力は無いけれど……。

「蓮も頑張ってるんだなと思って、私も凹んでないで頑張らないとね!」
「面接……上手くいかなかったのか?」

 蓮は少し心配そうに聞いて来た。

「うん、ベストは尽くしたけど倍率高いからね。また一からやるよ」
「……別に……就職しなくたっていいんじゃねえの? この先もここで働けばいいんだし……」