体力的に限界を感じたけれど、私は当事者なんだからしっかり話そうと思っていた。

 でも一歩足を踏み出そうとした瞬間、強い目眩に襲われて体が大きく揺らいでしまった。

「沙雪?!」

 蓮の叫び声を聞いたのを最後に、意識は真っ暗になり後は何も分からなくなった。



 目が覚めたのは、見知らぬ部屋のベッドの中だった。ぼんやりと見つめる先には、真っ白な天井と素っ気ない電灯。
 まだはっきりしない頭で、どこかの病院なんだろうかと考えた。辺りは人の気配は無く、静まり返っている。今は夜のようだ。

 みんなはどうしているのだろう。蓮が踏み込んで来たのは朝早くだったから、もうかなりの時間が経っている。

 気になったけれど、体が重くて起き上がれそうにない。再び意識が遠くなる感覚に逆らえず、私はいつの間にか目を閉じていた。


 私の体はかなり弱っていた様で、数日の入院が必要だそうだ。

 入院して四日目、ベッドで上半身を起こした状態でぼんやりしていると、病室の扉がゆっくりと開く音が聞こえて来た。

 じっと扉を見つめていると、蓮と気まずそうな表情をした雪香が入って来た。

「沙雪……迷惑と思ったけど、私心配で……」

 二人が近付いて来るのを黙って見ていると、雪香がベッドから少し離れたところで立ち止まりながら言った。

「俺は外してる、三十分したら戻る」

 蓮はそれだけ言うと、私の返事を待たずに部屋を出て行ってしまった。
 二人きりになった病室に、沈黙が訪れる。

「沙雪、私やっぱりちゃんと話したくて……」

 雪香の言葉に、私は小さく頷いた。

「私も……雪香には一つだけ謝らないといけないことが有る」
「え?」

 雪香は驚いたように私を見つめた。

「前に雪香を嘘つきって言ったでしょ?」

 雪香が蓮と共に私のアパートに来た時、三神さんの部屋からいつものクラッシック音楽が流れて来た。それを聞いた雪香は、以前にも聞いた事が有ると言ったけれど、私は信じないで嘘だと決めつけた。

 雪香もその時のことを覚えているようで、困惑した様子ながらも頷いた。

「あれは……私が間違っていた。嘘じゃ無かったんだね……」

 あの音楽は三神さんが越して来る前、早妃さんがいつも聞いていた曲だった。

 三神さんとの出会いを思い出したのと同時に気が付いた。三神さんはわざとあの音楽を大音量でかけていたのだと。

 きっと私が気付くかどうか、試していたんだと思う。