「本当に何も覚えて無いみたいだから、説明するよ。早妃はこの部屋のすぐ隣にいた。監禁されてたんだよ」

 私は大きく目を見開いた。

「そんな……嘘でしょう? だって外で見かけたことだって有ったし……」

 本当に監禁されてたなら、部屋から出られる訳が無い。

「……確かに、監禁と言うのは大袈裟だな。軟禁と訂正するよ」

 三神さんの話は私にとって予想もしていなかったもので、どう反応すればいいのか判断がつかない。何も言えないでいると、彼は話を続けた。

「早妃は当時付き合ってた男に、暴力で言いなりにさせられていたんだ。かなり暴れたはずだけど、気付かなかった?」

 このアパートに引っ越して来た当時の事を思い浮かべた。
 確かに隣の部屋はとてもうるさくて、迷惑に感じた覚えが有った。
 でも次第に慣れてしまい、気が付いた時にはいなくなっていた。
 今思えば、あの騒音が暴力だったのかもしれない。
 でも当時は、隣の住人のことなど気にする余裕は少しも無かった。

 直樹に裏切られたばかりで絶望していた私は、気力を失いただ呆然と毎日を過ごしていたから。
 誰とも関わらず引きこもって暮らしていて……でも生活していかなくちゃならないから、なんとか気持ちを切り替えて仕事を探し始めた。
 あの頃は、私だって必死で、とても他人にまで、気を回せる状態じゃ無かった。

「……隣がうるさいのは気付いていたけど……でもただ喧嘩してるだけだと思った。まさか暴力を受けてるなんて思わなかった」

 掠れた声でそう言うと、三神さんは軽蔑したような口調で答えた。

「そうだろうね、君は自分以外はどうでもいい人間だから」
「……確かに、気が利かなかったのは認めるけど……だからってどうしてここまでされないといけないの?!」

 怒りを吐き出し、三神さんを睨み上げた。
 三神早妃さんが酷い目に遭ったのは気の毒だけど、これはただの逆恨みだ。
 彼女が私に助けを求め、それを拒否したって訳じゃ無いのに。
 ただ察しであげられなかっただけなのにこんな仕打ちは理不尽過ぎる。

「こんなのただの逆恨みじゃない!」
「そうだとしても、君を許せない!」

 三神さんが今までに無い大声を出す。私の体は反射的にビクッと震えてしまった。
 
「……さっきここに居てもらうって言ってたけど……私をどうする気?」
「早妃と同じ目に遭ってもらう」

 私は信じられない思いで、三神さんの言葉を聞いた。