それが初めから嘘をつかれていたなんて。三神さんとは週に一度か、多い時は三度程顔を合わせていた。
 会社から帰って来るタイミングが同じで、ポストの前で話しかけられて……でも、私は決まった時間に帰宅していた訳じゃない。
 残業も有ったし、買い物をしてから帰るときもあった。
それなのに、頻繁に遭遇した。偶然時間が合うなんてことが、そんな何度も起こるのだろうか。

 それに、何故郵便受けのスペースばかり会ったのだろう。
 例えば近所で買い物をしている時に会うとか、駅で会うとか、そういった偶然は一度も起きなかったのに。
 まさか……意図的に時間を合わせていた?
 そうだとしたら、ずっと監視されてた事になる。浮かんだ考えに、背筋が寒くなった。

 再び歩きだしながらも、気分の悪さは消えなかった。
 私の考え過ぎなのかもしれない。でも三神さんには、不審な点が多過ぎる。
 雪香の関係のトラブル続きでさえ無かったら、もっと早く違和感に気付いていたと思う。

 そこまで考えた瞬間、心臓がドキリと跳ねた。
 まさか、三神さんは雪香に関わりが有る?
 そういえば引っ越して来た時期だって、雪香が消えた後だった。
 海藤の様に、何か雪香と関わりを持っていたのだろうか。
 妄想が膨らんで、段々それが真実のように思えて来る。

 アパートが視界に入って来ると、緊張で体が強張るのを感じた。
 もし三神さんが居たらどうしよう。
 いつも遭遇していた、ポストとその周辺を、少し離れた位置から隈無くチェックした。
 誰もいないのを確認してから、一気に階段を上り部屋へ駆け込んだ。

 しっかり戸締まりをして、シャワーを浴び落ち着いてから、今日見て来た物件の資料を開いた。
 早く決めたいから、多少の欠点は妥協するしかない。

 何度も資料を見比べ、実際見た部屋の様子を思い出しながら、一時間程悩みなんとか一方に決めた。
 明日契約出来たらいいのに。時計を見るとまだ夜の八時前だった。
 まだ電話が繋がるかもしれない。
 スマートフォンをバッグから取り出し、不動産屋に連絡しようとしていると、ブザーの音が聞こえて来て、私はビクッと体を震わせた。

 ドキドキとしながら、玄関に目を向ける。
 誰だろう……このアパートには、モニターなんて付いて無いからここから相手を確認出来ない。
 何かのセールスだろうか。
 それとも……また雪香がやって来た?