・
・【海人の部屋はそれなりに綺麗(本編とは関係ありません)】
・
「那智、オマエもラップで自衛するしかない」
はいっ、告白じゃなかったです。
小さくて丸い机に対面で、座布団の上に座っている私と海人。
海人は話を続ける。
「俺が休んだ時、那智は言霊ラップを撃たれるだけだろ? それはやっぱり疲れるから、那智もラップができるようになるべきだ」
いや……ラップで反抗したほうが疲れるような気がするけども、でも、でも、これを断って『はい、さよなら』じゃ一日がつまらなすぎるので、私は海人にラップを教えてもらう一日を選んだ。
「ラップの基本は言葉を出すことだ、まず言葉を出さなければ何にもならない」
「何か深いこと言っているようで当たり前すぎるね」
「でも実際、韻は最悪踏まなくても、言葉が出せれば形にはなる」
自信満々にそう言い切った海人。
何だか鼻高々で、若干ムカつく。
「まあ確かにそうだけども」
そう相槌を打つと、
「というわけでこれから俺が質問するから、すぐにそれに応えるように」
「いやそんな人見知り矯正レッスンみたいなこと言われても、そのレベルからやらなくていいよ」
そう言うと、海人はグッと拳を握り、こう言った。
「俺に任されてみてくれ」
「委ねろとかでいいよ、言葉が若干分かりづらいよ、もうこの時点で私、海人より言葉出てるよ」
「とにかく質問するぞ!」
そう語気を強めた海人。
はは~ん、コイツ、決めた通りに進まないと流れ作れないほうだなぁ。
まあいいだろう、ここは海人のために、やってあげますか。
「じゃあ質問してよ、すぐ答えるから」
「まずは、好きな食べ物は何ですか?」
「何で急に丁寧口調になるんだよ、アンケートか」
「はい! もっと早く応える!」
いやこれくらいのツッコミはいいだろうと思いつつ、私は
「グラタン」
と答えた。
というか。
「海人、私の好きな食べ物知ってるでしょ、前もグラタンが好きって言ったじゃん、私」
「知ってるとか知っていないとかじゃなくて、早く応える練習だから。あとこれは念押し!」
いや念押しって何だよ、と思いつつ、私は次の質問を待っていると、海人はポケットから何か紙を取り出し、それを見ながら質問を述べ始めた。
いや全然記憶できていないな! 最初の一回だけ!
「好きな具は?」
「何のだよ!」
「ぐっ! グラタンに決まっているだろ!」
「決まってはいないよ! 急に具って言われても分かりづらいよ! あとイカ!」
「好きな飲み物は?」
「今度は飲み物……えっと、コーラ」
そう言うと、うんうん頷いて、予定通りみたいな顔をする海人。
いや何がだよ、コイツ。
「じゃあ好きなオヤツは?」
「いや食べ物ばっかりじゃねぇかぁぁぁああああ!」
「重要なことなんだよ、応えてくれよ」
「何でそんな食べ物のことばかりなんだよ! もっといろいろあるだろ! あとビスケット!」
そう応えると、海人は紙をポケットに戻して、こう言った。
「合格だ、おまでとう」
「おまでとうって何だよ! おめでとうを噛むなよ! こんなヤツ、ラップできないだろ!」
「失礼な、ラップは得意だぞ」
そう言いながらも、少し頬を赤らめながら、今度はノートとペンをどこからともなく取り出した海人。
いや、噛んだことやっぱり恥ずかしいんかい。
海人は”俺が考えた武器”と書かれたノートを逆にして、裏面からページを開いた。
「……何そのノート」
「あぁ、新しいノート無かったから、これを後ろから使っていくことにする」
「いやその俺の考えた武器って何?」
そう言うと、慌てるように海人は、
「那智! 勝手にタイトル読むなよ!」
と叫んだ。
いやでも。
「海人って武器考えているのっ?」
と普通に聞くと、
「昔なっ!」
と言って開いた真っ白いページのノートをバンバン叩いた。
しかし私は見ていた。
ノートのタイトルの下には日付も書いていて、それが今年の、今月の日付だったことを。
めちゃくちゃ考えているんだな、武器を自分で。
「そんなことよりも、押韻の仕方を説明していくぞ」
「押韻の仕方ってコツあるんだ」
「あぁ! あるぞ!」
そう言うと、ニヤリと笑い、ノートにペンで字を書き始めた。
『あいうえお』と書いて、海人は止まった。
「これが母音で、母音を合わせるんだ」
「いやそこの説明はいいよ、コツを早く教えて」
「じゃあここからすごいぞ……『い』と『う』と『お』は、なんと『ん』にしても踏んでいる様に感じるんだ!」
そんな溜めるほどのことじゃなかったな、聞いていてなんとなく気付いていたし。
海人も私の気付いていた顔に気付いたのだろう。
とっておきみたいな感じで、海人はノートにペンを走らせた。
『あ』の後には『い』と『う』がきがち。
『え』の後には『い』が、ほとんど。
『お』の後には『う』が、ほとんど。
そう書いて、ストップした海人。
いや。
「何かザックリしているなぁ……口で言えばいいしな」
そう私が言うと、海人は急に立ち上がりこう言った。
「じゃあそこまで言うならラップで実践だ!」
そこまでは言っていないような。
というか今から私、海人とラップバトルするの?
・【海人の部屋はそれなりに綺麗(本編とは関係ありません)】
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「那智、オマエもラップで自衛するしかない」
はいっ、告白じゃなかったです。
小さくて丸い机に対面で、座布団の上に座っている私と海人。
海人は話を続ける。
「俺が休んだ時、那智は言霊ラップを撃たれるだけだろ? それはやっぱり疲れるから、那智もラップができるようになるべきだ」
いや……ラップで反抗したほうが疲れるような気がするけども、でも、でも、これを断って『はい、さよなら』じゃ一日がつまらなすぎるので、私は海人にラップを教えてもらう一日を選んだ。
「ラップの基本は言葉を出すことだ、まず言葉を出さなければ何にもならない」
「何か深いこと言っているようで当たり前すぎるね」
「でも実際、韻は最悪踏まなくても、言葉が出せれば形にはなる」
自信満々にそう言い切った海人。
何だか鼻高々で、若干ムカつく。
「まあ確かにそうだけども」
そう相槌を打つと、
「というわけでこれから俺が質問するから、すぐにそれに応えるように」
「いやそんな人見知り矯正レッスンみたいなこと言われても、そのレベルからやらなくていいよ」
そう言うと、海人はグッと拳を握り、こう言った。
「俺に任されてみてくれ」
「委ねろとかでいいよ、言葉が若干分かりづらいよ、もうこの時点で私、海人より言葉出てるよ」
「とにかく質問するぞ!」
そう語気を強めた海人。
はは~ん、コイツ、決めた通りに進まないと流れ作れないほうだなぁ。
まあいいだろう、ここは海人のために、やってあげますか。
「じゃあ質問してよ、すぐ答えるから」
「まずは、好きな食べ物は何ですか?」
「何で急に丁寧口調になるんだよ、アンケートか」
「はい! もっと早く応える!」
いやこれくらいのツッコミはいいだろうと思いつつ、私は
「グラタン」
と答えた。
というか。
「海人、私の好きな食べ物知ってるでしょ、前もグラタンが好きって言ったじゃん、私」
「知ってるとか知っていないとかじゃなくて、早く応える練習だから。あとこれは念押し!」
いや念押しって何だよ、と思いつつ、私は次の質問を待っていると、海人はポケットから何か紙を取り出し、それを見ながら質問を述べ始めた。
いや全然記憶できていないな! 最初の一回だけ!
「好きな具は?」
「何のだよ!」
「ぐっ! グラタンに決まっているだろ!」
「決まってはいないよ! 急に具って言われても分かりづらいよ! あとイカ!」
「好きな飲み物は?」
「今度は飲み物……えっと、コーラ」
そう言うと、うんうん頷いて、予定通りみたいな顔をする海人。
いや何がだよ、コイツ。
「じゃあ好きなオヤツは?」
「いや食べ物ばっかりじゃねぇかぁぁぁああああ!」
「重要なことなんだよ、応えてくれよ」
「何でそんな食べ物のことばかりなんだよ! もっといろいろあるだろ! あとビスケット!」
そう応えると、海人は紙をポケットに戻して、こう言った。
「合格だ、おまでとう」
「おまでとうって何だよ! おめでとうを噛むなよ! こんなヤツ、ラップできないだろ!」
「失礼な、ラップは得意だぞ」
そう言いながらも、少し頬を赤らめながら、今度はノートとペンをどこからともなく取り出した海人。
いや、噛んだことやっぱり恥ずかしいんかい。
海人は”俺が考えた武器”と書かれたノートを逆にして、裏面からページを開いた。
「……何そのノート」
「あぁ、新しいノート無かったから、これを後ろから使っていくことにする」
「いやその俺の考えた武器って何?」
そう言うと、慌てるように海人は、
「那智! 勝手にタイトル読むなよ!」
と叫んだ。
いやでも。
「海人って武器考えているのっ?」
と普通に聞くと、
「昔なっ!」
と言って開いた真っ白いページのノートをバンバン叩いた。
しかし私は見ていた。
ノートのタイトルの下には日付も書いていて、それが今年の、今月の日付だったことを。
めちゃくちゃ考えているんだな、武器を自分で。
「そんなことよりも、押韻の仕方を説明していくぞ」
「押韻の仕方ってコツあるんだ」
「あぁ! あるぞ!」
そう言うと、ニヤリと笑い、ノートにペンで字を書き始めた。
『あいうえお』と書いて、海人は止まった。
「これが母音で、母音を合わせるんだ」
「いやそこの説明はいいよ、コツを早く教えて」
「じゃあここからすごいぞ……『い』と『う』と『お』は、なんと『ん』にしても踏んでいる様に感じるんだ!」
そんな溜めるほどのことじゃなかったな、聞いていてなんとなく気付いていたし。
海人も私の気付いていた顔に気付いたのだろう。
とっておきみたいな感じで、海人はノートにペンを走らせた。
『あ』の後には『い』と『う』がきがち。
『え』の後には『い』が、ほとんど。
『お』の後には『う』が、ほとんど。
そう書いて、ストップした海人。
いや。
「何かザックリしているなぁ……口で言えばいいしな」
そう私が言うと、海人は急に立ち上がりこう言った。
「じゃあそこまで言うならラップで実践だ!」
そこまでは言っていないような。
というか今から私、海人とラップバトルするの?