・【海人本当に全快】


「完全に全快だぁっ!」
 給食を無事食べ終えて、教室に戻って来て、意気揚々となった海人。
 今教室にいた、猫美ちゃんと牛助くんと狐弓くん、というか私以外全員拍手をする。
 仲良いな、うちの学年。
「那智も拍手してくれよ!」
「何で給食食べて全快になったヤツに拍手を送らないといけないんだよ」
 と私はちょっと冷たくあしらうと、猫美ちゃんが
「そういうところが大事だぞっ」
 と言ったので、ちょっ、何か止めてよ、と思った。
 でも海人は何も気付いていない感じ。
 狐弓くんも気付いていない感じかな。
 でも牛助くんは優しく微笑んでいる感じ。
 ……ん? 牛助くんって、私のこと、好きなんだよね……ちょっと嫉妬してくれたって構わない、そんな女心発動していますよっ!
 さて、まあ変な拍手のくだりは置いといて遊びに行こうかな、と思ったその時だった。
 狐弓くんが手を挙げた。
「ボク、那智ちゃんに捧げたいラップがあるんだ! 本当は朝にしたかったけども、海人がお疲れだったから止めたんだ! でも今ならさっ!」
 そう言いながら挙げた手を下げて、その手がそのまま私のアゴの高さにきて、それを海人がパシンと叩き落とし、
「狐弓は本当無害そうに見えて、簡単に手を出してくる。ダメだぞ」
「いいじゃない! スキンシップじゃないか!」
「いや、ここは俺が止める!」
「じゃあ勝負ってことでいいね! ただし……こっちは二人だ!」
 えっ、どういうこと?
 牛助くんと二人がかりで勝負するということ?
 チラリと牛助くんを見ると、さっきの猫美ちゃんの台詞への理解がありそうな顔から一転、頭上にデカいハテナマークを浮かべている。
 そして海人は畏れながら言った。
「何を言っているんだ、狐弓……俺の頭上にデカい紅白饅頭が浮かんだぜ……」
「いやハテナマークを浮かばせろよ!」
 激しくツッコむと、狐弓くんが制止するような手のポーズをしてからこう言った。
「ボクはあやかし! こういうことだよ!」
 すると、狐弓くんは分身し、二人になったのだ!
 狐弓くんはこの学校に通うあやかしの中でも、かなりの妖術使いだ。
 だからまあ本当は、餓狼くんごときに負けるようなあやかしじゃないんだけどもね。
「ボクの掛け合いラップを受けるんだ!」

≪狐弓A(狐弓B)≫
ボクは那智ちゃんとしたい抱擁 (すぐに起こしたいんだ行動)
ボクは常に頑張っている堂々 (早く流したい付き合っている報道)
高め合いたいね、那智ちゃんと頂上 (常に持っている強い衝動)
那智ちゃんにいろんなモノあげたい豪商 (君がいれば絶対に起きない暴動)

 出た、狐弓くんの同じ母音で踏み続けるヤツ。
 ただ”おうおう”で押韻はやや安易のような気がする。
 でもそれ以上に思ったことは、せっかく分身したのに特にその特徴を生かせていないところだ。
 私へ音がサラウンドに聞こえるようになっただけで、特にそれ以上の特色は無い。

≪海人≫
抱擁とかすぐ発言する狐弓にOH,No 軽いあやかしには無い効能
響かないショット、効いてもちょっと ちょうど風に煽られて倒れたヨット
狐弓は海を渡れない、それ以上は語れない 狐弓のレベルはまだ家来
デカい世界を生きる俺の相手じゃない そんな豪商に買い手は無い

 しっかり狐弓くんの言葉を使いつつ、返した海人には見事の一言だ。
 その実力差をまざまざと感じたのだろう。
 狐弓くんはその場に膝から崩れ落ち、分身も無くなり、
「負けた!」
 そう宣言した。
 一発勝利を収めた海人は拳を天に突き上げて勝利のポーズ。
 まあそれくらいなオーバーリアクションをしてもいいくらいの出来だったかな。
 海人は自分の机にマイクを置いてから、私の近くに寄って来て、
「じゃあ小さな子供たちと一緒に遊びに行くか!」
 と元気に言ったので、私は大きく頷いて、一緒に校庭へ出て行った。
 やっぱり海人は頼りになるし、なんといってもカッコイイなぁ。
 その後、昼休みも終わって、午後の授業、そして下校となった。
 その下校の時、私は海人からこう言われた。
「明日土曜日だろ、もし暇だったら俺の家に遊びに来ないか?」
 えぇぇぇぇええええええ! 急にお誘いっ! マジでっ?
「ちょっと話したいことがあるんだ」
 ……マジか……あれじゃん……世に言う告白ってヤツじゃん……うわぁあぁぁぁ、望むところだわぁ。
 そして今日の私は家で、早く明日にならないかなと願い続けていた。