・【小学校に休むヒマ無し】


 あの一連の流れが朝で、授業して、給食。
 この給食も休むヒマは無い。
 無論、授業も無い。
 それは授業だからだけども。
 真面目に勉強しないといけないからだけども。
「やぁ、那智ちゃん、今日は一緒の給食当番だねっ」
 狐弓くんが爽やかに手を挙げながらやって来た。
 ハイタッチを所望しているようだけども、それは軽くいなして、当番に集中する。
 うちの学校は一学年5人くらいしかいないので、給食は全員同じ部屋で食べる。
 しかし当番を担当するのは、小学五年生から六年生まで。
 なので、当番がすぐやって来るのだ。
「那智ちゃんの鮮やかな配り技術が間近で見れて嬉しいよっ」
「嬉しくないよ、そんなん言われてもっ、ほら、狐弓くん、マスクしてっ」
「そうだねっ、風邪が流行っているからねっ」
 まあ給食当番のマスクは衛生面だけども。
 そうだ、風邪なんだよなぁ、海人は風邪なんだよなぁ、明日は来るといいけどなぁ。
 私のことを守ってほしいなぁ、海人に。
「じゃあスープの盛り付けはボクがするから、那智ちゃんはご飯の盛り付けをしてっ」
 さりげなくアツアツで面倒なほうをやってくれる狐弓くんは、まあ良いヤツではあるんだけども。
 つつがなく、給食当番の配膳の部も終了し、私たちは六年生の掛け声と共にご飯を食べ始めた。
 席は学年ごとにまとまっているので、いつも通りだ。
 目の前には、女子あやかしの猫美ちゃん、右斜め前には狐弓くん、そして私の右隣には牛助くんがいて、本来私の左隣には海人がいる……って! 餓狼くん!
「ガハハハ! 隣が空いていて寂しかろう! 来てやったぜ!」
「いいよ、そういうの、全然寂しくないから大丈夫だよ」
 ちなみに餓狼くんと龍太くんは六年生である。
「俺様のニンジンを分けてやろう!」
「いや普通にニンジンを食べたくないだけでしょ」
「そして那智が苦手な鶏肉を食べてやろう」
 いや全然苦手じゃないし、と思ったその時、狐弓くんが口を出す。
「那智ちゃんは鶏肉苦手じゃないよ、好きな人の好物も分からないなんて失格だね」
 そんな挑発的なこと言われて黙っている餓狼くんではない。
「何だとオマエ! ぶっ潰してやろうかぁっ!」
 そう言って急に立ち上がった餓狼くん。
 怖っ。
 素直に怖っ。
 こういうのやめてほしいなぁ。
 ……あっ、どうも。
「いつかぶっ潰してやるからなぁっ! まあ今はメシだ。食うに限る。そのまま那智を食っちまっても、なんつってな! ガハハハ! ……って! 牛助!」
「静かにしなさい、後輩も見ていますよ」
 私はさっきの”……あっ、どうも”のタイミングで、牛助くんと席を替わってもらっていた。
 牛助くんはこういう提案をさらりとしてくれるので、優しいなぁ。
「オマエが隣じゃ意味無いだろぉがぁぁぁあああ!」
「元々隣なだけでは何も意味を持ちません。心に寄り添いなさい」
 どっちが小学五年生で小学六年生なんだか、分かんないよ、全く。
 いや、牛助くんのそれがどっちも小学生じゃないけども。大人だけども。
「何だよ、うるせぇな! 戻るわ!」
 うるさいのは絶対餓狼くんのような気がするけども、まあ変に口出しすると長引くので言うのは止めよう。
 いろいろあって、食事の部も終了し、片付けの部に移った。
 狐弓くんがあの餓狼くんに強く言われてから、ずっと震えているのが気がかりだ。
「そんなに気にしなくていいよ、餓狼くんって誰に対してもああじゃない」
「いやでも、ぶっ潰すだなんて……そんな……戦前じゃないんだから……」
 どうやらだいぶビビっているみたいだ。
 こんな時はスキンシップに限る。
「はいはい、狐弓くんのシッポはもふもふー」
 そう言って私は狐弓くんのシッポをもふもふと触った。
「ちょっ! 那智ちゃん! 何だい、急に!」
「ストレス掛かると毛並みに悪影響出るよー、このもふもふ保てないよー」
「そうだけどもっ」
「あんなヤツのことよりも今の楽しい感じが全てみたいにやっていこうよ!」
 そう私が言うと、狐弓くんはやっと安心したような、いつもの微笑みを見せてくれた。
 やっぱりみんな笑っているほうが絶対楽しいからなぁ。
 ……って、こういうところが猫美ちゃんから『生物たらし』なんて言われちゃうところなのかな?
 いやでも周りが楽しくないと、私も楽しくないしなぁ、そこはもう譲れないところ。
 いろいろあったけども、狐弓くんは重いモノを持ってくれて、いい感じだった。
 教室に戻ると、
「那智さん、日直の仕事と給食当番が被っていたので、提出するノート、私が職員室に持っていきましたけども、良かったですか?」
 牛助くんが私を見るなりそう言ったので、私はすごく嬉しかった。
「ありがとう! 牛助くん!」
「そう言って下さって有難いです」
 そう言って牛助くんは多分いつもの図書室に行ったんじゃないかなぁ。
 そのやり取りを見ていた猫美ちゃんはふ~んと息をついてからこう言った。
「牛助は私に対しても、狐弓に対しても、海人に対しても、ああだから優しくていいよねぇ~」
「そうだねっ、本当うちのクラスのあやかしが牛助くんと狐弓くんで良かったよ」
「六年生の餓狼と龍太はちょっとあれなところがあるからね、力が強いあやかしってやっぱそういうとこあるねぇ~、でも! やっぱり那智の本命は海人かねぇ~!」
 とニヤニヤしながらそう言った猫美ちゃん。
 それに対して、私はちょっと焦りながら、
「ちょっ! ハッキリ言わないでよ!」
 と割と大きな声が出た。
 猫美ちゃんはこういう恋愛の話が大好きだ。
 ヒマさえあれば恋バナを振ってくる。
 猫美ちゃんは猫のあやかしで、気まぐれな性格だけども、恋愛にだけは本当誠実にずっと好き。
 人の噂話に対しては誠実と言っていいほど本当に好きなのだ。
 噂話が好きは誠実じゃないけども。
「海人もねぇ~、那智のことが好きなのかそうじゃないのか、分かんないねぇ~」
「そんな話はいいって! 私は小さい子たちと遊んでくるね!」
「活発ねぇ~」
 そう、給食後の休み時間は大体低学年の子たちと遊ぶことが日課だ。
 そこで私の中のお姉さんパワーを溜めるのだ。
 溜めたところで何があるわけでもないし、そもそもお姉さんパワーって自分で言っていて何、って話だけども、そうやって低学年の子たちを触れ合うことによって、何か、自尊心がアップするのだ。
 そして午後からの授業、放課後となり、ほら、こんな感じになるのだ。
「那智ちゃん! 給食の時はありがとう! お礼のラップを考えたんだ!」
 狐弓くんがそう言って私の行く手をさりげなく塞いだ。
 行く手って学校の玄関のことね、帰るから、ここ廊下で。
 というかお礼のラップ考えるヒマいつあったんだよ、まあ休み時間に考えたんだろう。
 仕方ない、ここは甘んじて受け入れるか。お礼だし。
「よしっ! こい! 狐弓くん!」

≪狐弓≫
いつも優しい那智ちゃん 君にはある大きな価値
君に増えてほしい幸 君から溢れている愛
君の有難さは立派な鯛 そして心躍らせる舞い
させる気分は勿論、ハイ ずっとそのままでいて那智ちゃん

 なるほど、全部私の名前の母音で韻を踏んだわけか……いいでしょう!
 ……そう言って、どこか楽しんでいる私がいることも、何か隙のある部分なんだろうなぁ。
「まあ気持ちは伝わりました、それではまた明日、さよなら狐弓くん」
「うん! また明日! 明日もよろしくね!」
 満面の笑みで手を振る狐弓くん。
 用事が済むと結構すんなり終わる狐弓くん。
 そういうところはまあいいよね。
 そんな感じだ。
 私の日常は大体こんな感じだ。
 そこにいつもは海人がいて。
 ……まあ海人がいると、また全然違った展開になるんだけども。
 明日は海人、風邪が治っているといいなぁ。