・【音源で勝負】


「音源で勝負しよう!」
 言い出したのは狐弓くんだった。
 そしてその場にいた牛助くんと龍太くんが納得し、その後、餓狼くんも了承したと言いに来た。
 この時の話を要約すると、ディスり合いやフリースタイルではなくて、音源で、曲で私へ愛をぶつけるという話。
 想いを一曲にして、私に聞かせるというものだった。
 そこで困ったのが、海人だ。
 それもそのはず。
 海人は私へ愛情は無い。
 友情だけだ。
 その時、海人は、狐弓くんに対して初めてうろたえていた。
 『一曲に愛を込めると言ったって、俺は、あの……』と言った感じだった。
 また、その海人のうろたえを見た時に、やっぱり海人は私のこと恋愛としては好きじゃないんだということを、まざまざと見せつけられたようで、すっごく落ち込んだ。
 盛り上がる狐弓くんと龍太くん、優しく頷く牛助くん、そんな感じだった。
 この日の帰り道。
 私は一人で帰っていた。
 いつもは海人が私を守るように歩いていくれるんだけども、今日は何だか海人は先に走って帰ってしまったらしい。
 気まずいのかな。
 寂しいな。
 こんな寂しい日に限って、他のあやかしたちはラップを仕掛けてこなくて。
 きっと曲で勝負に賛同したから、仕掛けてこないんだろうなぁ。
 みんなズレてるんだよなぁ。
 今きてくれたら、コロッと転がっちゃうかもしれないのに。
 もっとズレないかな、海人が。
 友情と愛情の違いが分からなくなるくらい、海人がズレてくれたらいいのに。
 でもそんなことは無いんだろうな。
 寂しいな。