人が一人消えたというのに、店もまわりの人も誰も気付くことはなかった。

 あやかしのくせに野菜ジュースが好きとか、どんだけ意外性あるのよ。心の中で悪態をつきながら、残された私は一人帰路についたのだった。

「ゴメン! 昨日、システムトラブルでどうしても抜けられなくて」
「いいよ、いいよ。一人でも楽しめたよ」

 翌日、ナオちゃんがドタキャンしたことを必死に謝ってくるので、私は笑って対応した。
 結果的には楽しい夜だったと思う。鞄に入っている金属製の羽根が昨日の出来事が夢じゃなかったことを教えてくれた。

 来年のハロウィンも翠藍はこの世界に来るのだろうか。そのときは会えるのかな。

 ──会えたら、いいな。

 自然に、そんなふうに思った。
 そして、今日も私の何ともない平凡な一日が過ぎてゆく。

    ◇ ◇ ◇

「おい、女。来たぞ」
「へ?」

 約一週間後、そう言って私の目の前に現れたのは黒目黒髪の普通の青年だった。
 高い背と整った顔は確かにあの時と一緒だけど、羽もなければ、瞳も普通。服もごく普通のスラックスにカットソーとジャンバーというもの。

「…………。羽と瞳は?」
「ああ。自分でしまえる。お前が出してるとまずいといったのだろう? 目は幻術で黒く見せてる」
「しまえるんかい!!」

 思わず突っ込んでしまったのは仕方ないでしょ?
 とりあえず、この意外性ありまくりのあやかしさんには私の名前を覚えて貰うことから始めようかな?