翠藍は脇の下からのぞく自分の羽根をさらりと撫でた。自慢の羽とかあるんだ。人でいう、髪の毛のようなものなのかな。
 確かに、翠藍の背中から生えている羽には凄く綺麗な艶があった。 

 私が羽を眺めていることに気づいた翠藍は、一本だけそこから羽根を抜くとそれを手のひらに乗せて何かを詠唱した。それに合わせて羽根が金色の金属のように変化した。

「やる」
「え?」
「俺の妖力が籠もってるからこっちの世界にいる下級のあやかしはお前に近づけなくなる。お守りだ」

 私は翠藍に手渡された羽根をしげしげと見つめた。
 触ると硬く、金属製の羽のレプリカにしか見えない。

 ──ただのお守り? 
 ──翠藍って、自分自身があやかしなんでしょ?
 ──まさか呪い羽根!?

 翠藍は青くなった私の考えに気付いたようで、バツが悪そうに顔を顰めた。

「お前はあやかしが悪いものだと考えているようだが、それは違う。確かに下級のあやかしで人に対して悪戯がすぎる奴らはいるが、別に全員がそんなことをするわけではない。だいたい、あいつらは何かをしでかして幽世を追放された奴等だ」

 なにかしでかして追放? 犯罪者ってこと?
 なんでそんな人達、おっと間違えた、そんなあやかしを現世に追い出してるのよ。
 大迷惑なんだけど。

「じゃあ、これ持ってても呪われない?」
「お守りだと言っただろう」

 翠藍がぶっきらぼうに言う。よく見ると、少し口を尖らせており、不貞腐れているようだ。

「じゃあ、有難く受け取ろうかな。ありがとう」
「どういたしまして」

 厚意に甘えて私は素直に羽根を受け取る事にした。翠藍は途端に機嫌を直し、嬉しそうにはにかむ。
 あやかしって、全然イメージと違うなぁと思った。見た目は違うけれど、なんだか人懐っこい。

 そのとき、翠藍が急に真剣な顔をした。

「そろそろ帰る時間のようだ。喚ばれている。思ったより早いな」
「え? 今ここで??」

 私はおろおろとあたりを見渡す。

 そりゃまずいよ。ここ、ファミレスの中だよ? トイレに入るとかしないと! と、私が焦っているとふわっと空気が揺れた。

「え?」

 私の座る席の正面には、飲みかけのドリンクバーの野菜ジュースだけが残っていた。氷を入れているせいで、冷えたグラスには水滴がついて紙製のコースターにシミができている。