「翠藍を仲間だと思って、一緒に愉しんでたんだよ」
「俺が仲間? なるほど。誰かとはしゃぐと愉しい、と言うことだな?」
「うん、そう」

 翠藍は私の答えに満足そうに頷くと、「確かに愉しいのかもしれないな」と笑った。

 クラブから出ると、私達は二十四時間営業のファミレスに向かった。さすがに今日あったばかりの男──人間じゃなくて自称あやかしだけど──を家に連れて帰る気にはならない。
 明日を午前半休にしておいて本当によかった。

「お前達は妖力もないのに、妖術のようなことをして面白いな」

 翠藍は夜も煌々と光る街を見渡して、不思議そうに目を細めた。きっと翠藍の世界では妖術が一般的なのだろう。

「妖術が使えないからこそ、知恵を絞って工夫するんだよ」
「そんなものか?」
「そんなものです」

 翠藍は「ふーん」と鼻を鳴らした。
 街の中の巨大モニターが特に気になるようで、見つける度にじーっと見入ってしまうものだから、目的地のファミレスに着いたころには本当に真夜中になっていた。

 ドリンクバーの使い方を教えてあげると、ボタンを押して「どうだ?」と得意気な顔をしている。あんたは幼稚園児か!

 翠藍は私の飲むメロンソーダをみて、幽世によくいる下級あやかしの小便に似ていると言って笑った。

 こいつめ。普通、人が飲んでいるときに、言うかね?

 でも、最初の印象とは違って、よく笑う人だな、と思った。

「翠藍っていつ幽世に帰るの?」
「わからん。幽世から転移陣で呼び戻される。多分、あと二、三時間以内だ」

 おかわりのホットアップルティーに砂糖をいれる。白い粒子は濃い琥珀色の液体のなかでゆったりと揺れながら消えてゆく。かき混ぜたスプーンが、カランと音をたてた。

「ふーん」

 あと少しで帰っちゃうのか。
 それを聞いた私は、数時間前まで逃げ出したかったのに、なんとなく寂しさを感じた。

「今日が初回調査だから、多分また来る」

 続けた翠藍の言葉に、私は重大なことに気付いた。

「ねえ。その格好、こっちだとまずいよ」
「なぜだ? 今日は特に何も言われなかったぞ?」
「言ったでしょ? 今日は特別な日なの。普通の日にそんな羽があったら目立ちすぎるから。それに、袴も。来るなら来年まで待ちなよ」
「そうなのか? 自慢の羽なのだが、残念だな」