「なぜ仮装して大騒ぎするんだ?」
「それは、誰かとはしゃぐと愉しいから! はい、飲んで、飲んで」

 私はカウンターから見繕ってきたお酒をさっと翠藍に差し出す。

「そんなものか?」

 翠藍は小さく呟くと、私からグラスを受け取った。
 興味深げにグラスを回して、鼻を近づける。そして、恐る恐るといった様子でそれを口にした。

 よし、飲んだ! 

 翠藍に渡したのは、バーテンダーに聞いて用意してもらった一番強いウオッカだ。酔っ払ってくれたらうまく撒けるかもしれないと思ったのだ。

「旨いな」

 私の心の声など露知らぬ翠藍は一気にお酒を飲み干すと、続けて二杯目、三杯目も飲み干した。
 その様子に唖然とする私をよそに、ずいぶんとお気に召したようでご機嫌になっている。
 
 あれを三杯一気飲みとか、ザルですか? いや、ザルを飛び越して枠なの?

 カクテルしか飲んでないこっちが先に酔い潰れたら洒落にならない。

 ところで、私は一つ気になっていたことがあった。翠藍の黒い羽はホンモノなのだろうか。さっき羽ばたいているのは見たけれど、もしかしたら精巧な機械という可能性も捨てきれない。
 そっとその羽に手を触れると、冷んやりとした感触がした。

「おい。羽に勝手に触るな。男のイチモツに勝手に触るようなものだぞ」
「へ? イチモツ??」

 その意味を理解して、いっきに赤くなり狼狽える私を見て、翠藍は楽しげに笑った。

「冗談だ」

 機嫌よさそうに口の端を持ち上げた翠藍は、ははっと笑う。顔に出ないだけで多少酔っ払っているのかもしれない。
 その笑顔に私は不覚にも、ちょっと可愛いかも、って思ってしまった。

 クラブでは最優秀の仮装を選ぶ即席コンテストがあった。当然選ばれるわな、イケメンなあやかしさん。

「何処から来ましたか?」
「幽世の桐憲(きりけん)から」

「羽は自作? 目はコンタクトかな?」
「これは生まれつきだ」

「普段のお仕事は?」
「学者だ」

 最後の仕事だけやけに普通の答えだったが、まわりの人達は翠藍があやかしになりきっている人なんだと思って大いに盛り上がって大笑いしていた。そして、なぜか記念撮影までしている。

「よく笑う奴らだな」

 私のところに戻ってきた翠藍は、写真を撮るときにまわりの人に触れられて着崩れた袴を整えながらそう言った。