「なにこれ?」
「鳥の丸焼きだ。でっかいのが食べたいと言っていただろう? 捕まえるのに手間取った」
「…………」

 得意げに胸を張るこの男に、一体何から説明すればいいんだろう?
 まず、サイズがおかしいぞ。よく知るチキンの三十人前くらいありますが?
 次に、完全に焦げているように見えますけど? これ、表面はほぼ炭ですよ。食べるところあるの?

 そして最後に……、なんでここに居るんだ!?

「なんで! なんでここにいるの!?」
「お前がここにいたからだ。羽根はちゃんと持ち歩け。探せなくなる」
「羽根?」
「前にやっただろう?」

 翠藍にそう言われて、私はハッとした。
 初めて翠藍に会ったとき、彼はお守りだと言って私に自分の羽根をくれた。艶やかな漆黒の羽根を妖術で金属のようにしたものだ。言われてみれば、いつも通勤カバンに入れっぱなしで、新作バックを使った今日は持ち歩いていなかった。
 
「私が羽根を持ってなかったから、会いに来るのがこんなに遅くなったの?」
「あれを持っていてくれないと、さすがの俺も探せんぞ」
 
 不愉快そうに眉を寄せる翠藍に対し、私は急激にテンションが上がるのを感じた。

 なんだ、なんだ。そっか、そういうことか。
 
 密かに恋人(もちろん、恋人じゃないけどね。だって、人間じゃないし)にデートをすっぽかされたときのように傷ついていたのだが、今度はほっぺたが緩む。翠藍はそんな私を見て、胸を張る。

「そんなにこの鳥が嬉しいか。これはだな、捕まえるのが本当に大変だった。死の火山と有名な笛炒戸(フエイルト)山までわざわざ出向いて、俺が直々に──」

 なんか勘違いした翠藍が得意げに説明し始めたけど、ほとんど聞いちゃいない。だって、私を探そうとしてくれてたって! なんか嬉しい。

 その翠藍直々に仕留めて鬼火で焼き上げたという鳥は、焦げた見た目とは裏腹になかはしっかりジューシーで美味しかった。既にケーキを食べたせいでお腹いっぱいだった私は、ほとんど食べられなかったけど。

「そうだ、腕を出せ」
「腕?」

 お腹いっぱい鳥を頬張った後にそう言われて、私は首をかしげつつも左手を差し出した。
 翠藍が片手のてのひらを上にして、なにやら呪文のようなものを唱えると金属製の輪のようなものが出現する。よく見ると、腕輪のように見えた。