置時計をちらりと確認して、意味もなく椅子から立ち上がる。時計が壊れているのかと思ってスマホを確認したが、やはり『18:30』を表示している。

 前回翠藍が人間界に来たとき、彼はクリスマス当日も見てみたいと言っていた。
 クリスマスを異性──正確には人間じゃないから異性じゃないかもしれないけど──と過ごすのは実に三年ぶりだ。自然と気持ちも浮つく。だから、今日は四時ごろからこうやってスタンバイしているわけだけど、一向に来る気配がない。

 当たり前だが、翠藍の世界と繋がるスマホは存在しない。だから、翠藍が来るのはいつも突然で、まさに神出鬼没だ。家や職場近くを歩いているとひょっこり現れたりすることも多い。翠藍には、私がどこにいるのかわかるようだ。

「……買い物でも行こうかな。どこにいても同じだし」

 いつまでも家で待っているのも手持ちぶさたになり、私は買ったばかりのハンドバッグを手に持つと街へ出た。


 冬の夜は、街の明かりが目に染みる。
 暗い闇夜を照らすのは、無数のイルミネーションとビルの煌めき。闇の中の光は、正反対だけにその輝きを増す。

「お腹すいたな……」

 スマホを確認すると、時刻は既に八時を過ぎていた。正解に約束したわけでもないのだから、翠藍は今日は来ないかもしれない。なんだか今日は、顔に当たる冷たい風がいつも以上にぴりりと刺すように痛い。

 私は帰り際、少し迷って人気のパティスリーに立ち寄ってケーキを買った。

 チョコラクリームの最後のひと塊をフォークでかき集める。口の中で蕩けたそれは、濃厚な甘さの余韻をいつまでも残した。

「美味しかったー。ごちそうさまでした!」

 クリスマスの夕食が抜きで夜食がケーキ二つ、しかもおひとり様でテレビを見ながらって正直どうなの? 二十代半ばの女性として終わってる気がしたけど、ケーキに罪はない。はっきり言ってめっちゃ美味しかったし、カロリー的にも十分だろう。

 使い終えた皿を台所に運び、お湯を出して食器を洗い終えると、タオルで手を拭いた。シンク脇に置いてあるハンドクリームを塗りつつ部屋に戻るとそいつはいた。

「おい、女。来たぞ。ご希望の鳥だ」

 部屋に戻った私は目が点になった。
 だって、ローテーブルの上に、ダチョウですか? ってツッコみたくなるサイズの丸焦げの鳥があって、その横には翠藍がいたのだから。