翠藍は少し眉を寄せ、腑に落ちないような顔をした。

 質問に答えながら気付いたが、クリスマスというのはとても不思議なイベントだ。
 キリスト教徒にとって重要な日であることはよくわかる。しかし、日本は殆どの人が無宗教のはず。

 決まり事のように皆がこの日に大切な人にプレゼントを渡し、恋人達はイチャイチャする。全くもって意味不明だ。

 でも、悔しいことにクリスマスの時期は嫌いじゃない。街のイルミネーションが綺麗だからむしろ好きだ。恋人がいなくたってイルミネーションを美しいと思う気持ちは一緒なのだ。

 翠藍はまた引き寄せられるように上を向いた。その視線の先を追うと、青白いライトがまるで光のトンネルのように輝いていた。

 翠藍と今日来ている街──六本木は都内有数のイルミネーションの名所だ。今歩いている六本木ヒルズのけやき坂の並木にはLEDライトが無数に煌めき、幻想的にあたりを照らしていた。坂を下る方向を向けば、ビルの合間から東京タワーが根元近くまで顔を出していて、より一層クリスマスムードを盛り上げている。

「まあ、由来はよくわからないけど綺麗だからいいじゃない。あとは、大きな鳥の丸焼きを食べる人が多いよ」
「鳥?」
「うん、そう。私は丸ごと焼いたのは食べたことないけど」
「食べたいのか?」
「うん、でっかいのを食べてみたい」
「でっかいの……」
「けど、食べきれないし、丸ごとは結構高いし。ねえ、向こうも行ってみようよ。毎年、広場が一面ライトアップされてて綺麗なんだよ」

 私は翠藍を見上げて持っていた情報誌を指さした。情報誌の写真には、青いライトが芝生一面を埋め尽くした写真が掲載されていた。翠藍が情報誌を覗き込むと、少し長めの黒髪がハラリと額にかかる。

「いいだろう」

 二人で見た床一面のイルミネーションは本当に素敵だった。
 彼がどう思ったかは知らないが、少なくとも私にとっては素敵に見えたのだ。


    ◇ ◇ ◇


 時計の針が進んでいくのを見ながら、そわそわとカフェの洗面所に向かう。
 今日、もう何回口紅を塗りなおしただろう。デパートで買った新作のグロスは、濡れているような質感を見せながら、ティーカップには付きにくいという優れもの。落ちてないと分かっているのに、何回も確認しては、ついでに前髪の流し具合もチェックする。

「うーん、遅いな……」