私はお弁当とメロンパンを食べ終えると、「ごちそうさまでした」と手を合わせ、空になった弁当箱を袋に包んでいった。
「もう食べ終わったの?」
「うん。颯の様子を見に行くつもりだから」
「かーほーごー」
汐花の声色にはあからさまに棘が含まれている。
龍神の巫女だからと言って、颯の世話ばかり焼く私を汐花はあまり快く思っていない。
「や、でもさ?授業をサボるのはいけないことじゃん。ほら、来年は受験も控えてるし……」
果たして龍神に普通の人間と同じ教育が必要なのかというのははなはだ疑問だが、同じ高校に入学した以上は一緒に卒業したい。
昨年は出席日数がギリギリで進級が危うかった。今年は同じ轍を踏まないように今からしっかり監視しておかない心配で仕方ない。
汐花はゆっくりと箸をおき、もっともらしい言い訳を始めた私にふわりと笑いかけた。
「そんな、凛に朗報があるの」
こういう笑い方をする時の汐花は必ず良からぬことを企んでいる。
「隣町の高校に通っているお兄ちゃんの友達と一緒に遊園地に行かない?」
「え?」
汐花は周りに聞こえないように声を潜め、私にしか聞こえないようにコソコソと話しだした。
「ほら、あそこって男子校でしょ?どうしても女子と交流したいって頼まれたの。凛の写真を見せたらあっちも乗り気になっちゃってさ」
汐花の一歳年上のお兄さんはとっても優秀な人で、私達が通うこの高校よりも偏差値の高い隣町の高校に通っている。末は博士か大臣か、村一番の出世頭ともっぱらの噂である。
「相手は夕霧村の人じゃないから、凛が龍神の巫女だってことも知らないわ。颯様に尽くすのもいいけど、凛だってたまには他の男子と交流したっていいじゃない?」
一緒に行こうよー!!と、熱っぽく懇願する汐花になんと返事をして良いのか分からず、私は弁当箱を胸に抱えたまま困り果てた。
「えーっと……。考えとく……」
辛うじてそう答えると、お弁当箱をナイロンバッグに投げ入れ、逃げるようにして颯のいる屋上へと小走りで駆け出していく。
顔も見たことの他人に好意を向けられていると思うと、にわかに背中がこそばゆくなった。