「ハイ、メロンパンと焼きそばパン」
おばちゃんに論破された私はぶすーっと仏頂面のまま、颯の目の前にパンの入った紙袋を突き出した。
「さんきゅー」
「おばちゃんがお代はいいって」
「あ、そう。ラッキー」
颯はそう言うと早速紙袋を開け、紅ショウガと青のりがたっぷりのった焼きそばパンに食いついた。
授業中はグーグー寝ていたくせにご立派なことにお腹だけは空くのかとイラっとさせられる。
「ねえ、お金も払わずにパンを食べるなんて恥ずかしくないの?」
もぐもぐと何も考えずに焼きそばパンを口に運ぶ颯につい嫌味を投げつける。
このやきそばパン一個をつくるためにあのおばちゃんがどれくらい苦労しているのか知っているのだろうか。
朝早く起きて、パン生地をこね、焼きそばを炒め、一個一個それはそれは丁寧に我が子を慈しむように、丹精込めて作ったのに。
颯は正当な対価も払わず、かといっておばちゃんに感謝もせず、ただただ何も考えずに焼きそばパンを食べるだけ。
少しはありがたく思いなさいよと、ジトーっとねめつける。
「別に。あっちが勝手にありがたがって敬ってるだけだし?俺には関係ないね」
情に訴えたというのに、ちっとも堪えていないのかケロリと言う。
「あのねえ……」
「龍神に生まれたのは俺のせいじゃないからな」
颯は唇の端についたソースを親指で拭い、そのままぺろりと舌で舐めとった。
焼きそばパンの入っていた袋をゴミ箱に投げ入れると、紙袋の中からメロンパンを取り出し器用に私の頭の上に置く。
「はい、お駄賃」
私が菓子パンの中で一番メロンパンが好きだということを、颯は当然知っている。
この生意気な龍神は飴と鞭を使いこなすのが抜群に上手い。
そよ風のようにヒラリと私をかわすと、鼻歌を歌いながら教室から出て行く。
(くっそう……)
これしきのことで絆されたりしないんだから!!
「颯っ!!午後の授業もちゃんと出るのよ!!」
廊下を歩く颯の背に向かって叫ぶと、やつはこちらを振り返らずにひらひらと片手を振ると、階段を上に上って行った。
立ち入り禁止の屋上はすっかり颯専用の昼寝スペースと化している。神通力を使えば鍵はあってないようなもの。
あの様子だと、午後の授業もサボる気満々だ。
昼休みが終わる前にきっちり屋上から連れ戻しに行かないといけない。
(ああ世話が焼ける、あの問題児!!いや、問題神め!!)
私は颯にもらったパンを片手に心の中で毒づくと、今度こそ昼食をとることにした。
自分の席に戻りナイロンバッグから弁当箱を取り出すと、待ちぼうけを食らっていた汐花の元に慌てて駆け寄る。