「龍神と巫女は恋愛できないって、古文書に書いてあったの……」

「なんだ。そんなことかよ」

「そんなことって……。古文書だよ?わざわざ古文書に残しているくらい重要なことだよ?」

颯はことの重要さを分かっていないのだと、つい声を荒らげる。

しかし、私の女々しい言い訳を颯は一蹴した。

「お前はあれこれ難しいこと考えずに俺の世話だけ焼いてりゃいいんだよ」

世話を焼いてもらっている立場の龍神にそう言われて、私は目を丸くしたのだった。

(もう、やだ……)

何で、颯が。私が本当に聞きたかったセリフを言うのよ。

そんなこと言われちゃったら、想いが溢れ出して止まらなくなる。

「ろくでもないことしか書いてない古文書なんて俺が燃やしてやろうか?」

「この……罰当たり」

「大体、俺が人の言うことを素直に聞いた試しがあったか?」

颯はさもおかしそうにケラケラと笑った。

……それもそうか。

龍神は誰にも縛られない。あるがままの自然と同じように、心の赴くまま誰に流されることもない。今までだってそう生きてきたし、これからだってそうだ。

「凛の気持ちは分かってんだぞ。山で名前を呼ばれた時に全部伝わってきたからな」

ニヤニヤと嬉しそうに笑う颯に頬をツンツンと突かれ、私は頬を赤く染めた。

颯の神通力には困ったものだ。

あれこれと考えすぎる頭より、とっさに颯の名前を呼んだ心の方がよほど素直だったらしい。

「いい加減、観念して俺の女になれよ」

「……その代わり、数学の課題はやること」

苦し紛れにそう言うと嬉しそうに笑う颯と目が合い、続きはキスでかき消された。

口が悪くて。生意気で。それでいて私の心を捉えて離さない。

あまったれの龍神様。

願わくばこれからもずっと傍にいられますように。

私は夜空に輝く星たちにそっと祈ったのだった。



おわり