颯の背に乗って夕霧山を下ると、子供たちの両親と消防隊が非常用ライトをつけて、登山口で私達の到着を今か今かと待っていた。

龍の影が見えると、おーいとこぞって手を振りだす。

駐車場に着地し、子供達を背中から降ろしてやると、両親が一目散で駆けつけてくる。

「本当にありがとうございます!!」

ひとしきり我が子の無事を確かめると、今度は口々にお礼を言う。

「ありがとうだってさ、颯」

『夜に山に入るなんて馬鹿なことしないように、よく躾とけよ』

両親達に言葉が通じないのをいいことに、暴言を吐く颯の肢体にバシンと張り手をくらわす。

「もう……!!あまのじゃくなんだから!!」

折角、良いことしたんだから素直に受け取っておけばいいのに。

まあ、それも颯らしいといえば、颯らしい。

親子の再会が終わりひと段落すると、颯は登山案内所の裏に隠れてようやく変化を解いた。

「凛、着替え」

颯は全裸のくせに偉そうに着替えを要求した。

「ハイハイ」

私はリュックから着替えを取り出して、後ろを見ないように颯に着替え一式を渡した。

「着替え終わった?」

「ああ」

そう言われてクルリと後ろを振り返ると同時に、颯が肩にもたれかかってくる。

「ちょ、ちょっと……!!」

「疲れた……。もう一歩も動けねえ……」

「きゃ!!」

小柄な私がやたらと図体のでかい颯の重さに耐えられずはずもなく、その場に尻もちをつく。強かうちつけたお尻を撫でていると、颯が私の手首を掴んで地面に身体を押し倒した。

「凛、さっきの続きしない?」

「はあ!?」

数メートル先には、まだ消防隊と村の人達がいるというのに、色気づいている場合か?このエロ神!!

「するわけないでしょ!?」

「イヤイヤされると余計に燃える~」

煽ってるわけじゃないんですけど!?

「ちょ、バカ!!どこ触ってんのよ!!」

パーカーの上から胸をまさぐる颯に拳骨をくれてやる。まったく油断も隙もあったもんじゃない。

「何でダメなんだよ?」

颯は拗ねたように唇を尖らせた。

「言わないと、このままチューすんぞ?」

ペチペチと頬を軽く叩かれ、唇を親指でなぞられて、私は青ざめた。

理由を言わなければ大事に守ってきたファーストキスを無理やり奪われかねないと、仕方なく重い口を開く。