颯の姿がすっかり見えなくなると、私はリュックの中からブランケットと、菓子パン、バナナを取り出した。

いつから森に迷い込んだのか分からないが、お腹が空いていたのだろう。三人ともペロリと菓子パンとバナナを食べてしまった。

三人とも山に入るにしては随分と軽装で、水はおろか食料も持っていなかった。

おそらく、大人が龍神祭りの準備で駆けずり回っているのをいいことに、家を抜け出して夜の探検にでもやって来たのだろう。何を隠そう私にも同じことをした心当たりがある。彼らと私の違いは、颯が一緒だったかどうかである。

(遅いな……)

子供達がパンを食べ終わっても颯が戻って来る気配は一向になかった。よほど遠くまで行ってしまったのだろうか。四人一緒にブランケットを羽織り、身を寄せ合って寒さをしのぐ。

「おねえちゃんは龍神様とお話ができるの?」

「うん」

一番のしっかり者らしい女の子が、好奇心いっぱいの瞳で尋ねてくる。

「もしかして巫女様なの?」

「ええ、そうよ」

巫女には間違いないのでそうだと頷いたが、違和感しかない。私は生まれて以来、巫女らしい働きは何もしていない。

遥か昔は、龍神のために祈祷したり、穢れを払ったりと、巫女という名に恥じない役割が盛り沢山だったらしいが、今では殆どが形骸化している。

インフラが整い、欲しい物が簡単に手に入る現代社会において、龍神の世話をするのは必ずしも巫女の役目ではない。

巫女は必要ないのかもしれないという現実を打ち消すために、あえて甲斐甲斐しく颯の世話を焼いているのかもしれない。

……世話を焼く以外に、傍にいる方法が私には分からない。

(颯のバカ……)

なんで、自分を彼氏にしろだなんて言い出すのよ?

愚かな私はまた淡い夢を見てしまう。これから先、ずっと一緒にいられる保証もないのに。