出発して十分ほど経つと、一定の速度で空を飛んでいた颯が徐々にスピードを緩め始めた。どうやら目的地に到着したようだ。

夕霧山の北東に約十キロメートル、ハイキングコースからは随分と外れた森の中だった。颯は地上から高さ十メートルほどのところをクルクルと旋回し始めた。私は鬣に掴まりながら眼下の景色に目を凝らしたが、月明かりもなく、樹木に隠れて地面が良く見えない。

「龍だ――!!」

思いがけずどこかから悲鳴とも歓声とも似つかない叫び声が聞こえた。

子供達が龍に変化した颯を見つけて、大声を上げているのだろう。

颯が心得たように声が上がった方に身体を捻った。私はリュックから懐中電灯を取り出し、地面に向けた。

「いた!!」

子供達を発見するや否や、えいやと颯から飛び降りる。地面に激突する寸前、ふわりと身体が浮く。颯が神通力で風を起こしてくれたのだ。無事に着地すると、すぐさま子供達に駆け寄る。

「あなたたちが龍神様に助けを呼んだの?」

「うん」

空の上の龍に目が釘付けになりながら、女の子が頷いた。

道に迷った恐怖や、助けがきた安堵感よりも、本物の龍を見たという衝撃の方が強いようだ。

颯は空も飛べるし、大きな荷物も運べるけど、小回りが利かないのが難点だ。特に森の中では身体を下ろせる場所がないから、空をふよふよと漂っているしかない。

「よく頑張ったわね。もう大丈夫よ」

『おい、ひとり足りねーぞ』

頭上の颯から、指摘が飛んでくる。言われてみればひとり足りない。颯は四人と言ったのに、この場には男の子が二人、女の子が一人しかいない。

「もう一人はどうしたの?」

「みーくんははぐれちゃったの」

「はぐれた?」

「うん……。歩いてたらいつの間にかいなくなってって。皆で探したけどどこにもいないの……」

はぐれた友達の行方が分からないことを話すと、三人ともみるみる目尻に涙がたまっていく。

「颯……!!」

『仕方がない。探しに行くか。凛はここで大人しく待ってろ」

「でも……」

『お前がここに居れば、俺もガキどもを見失わない』

龍神には巫女の居場所が必ずわかる。うなじにある龍鱗が目印となり導いてくれる。そのおかげでかくれんぼでは一度も勝てた試しがない。

『残った一人を見つけてすぐ戻る。大人しく待ってろ』

「わかった。気をつけてね」

颯は再び空を上昇していった。