それは、日本のどこにでもあるようなごく普通の村だった。
昨今の地方自治体の御多分に漏れず、過疎化が進み、前途ある若者が次々と都市部に流出し、高齢者ばかりが目立つその村は、これといった観光資源もなく、また大規模な資源開発とも無縁だった。
先祖代々の田畑を耕し、天からの恵みに感謝しながら、移り変わる四季を指折り数える。
そんな暮らしをしている人が大多数を占める、豊かな自然に囲まれた何の変哲のない村だ。
変わっているところを強いてあげるとするならば、天災が異常に少ないということくらいか。
台風、洪水、大雪。
近隣の市町村が甚大な被害を受けている一方、その村は無傷あるいは非常に軽度な被害しか報告されず、調査を担当した公務員は皆一様になぜだろうと首を傾げた。
似たような事例が他にも報告され、これは単なる偶然でないことが誰の目にも明らかになると、まことしやかにこんな噂話が広まるようになった。
……あの村は龍神に守られているのだと。