「それは、つまり、なんだ。俺が弥生と結婚したのか──という質問か?」

「う、うん」


 単刀直入に言えば、たしかにそういう意味だ。しかしこんな顔をするなんて、そんなに聞かれたくないことだったのだろうか。翡翠がこんなにわかりやすく嫌がるなんて珍しい。

 あまり触れられたくない部分に触れてしまったのかな、と不安になっていると、翡翠はこれまでに見た事がないほど顔をゆがめ、ぶるっと身体を震わせた。


「勘弁してくれ。冗談じゃない。孫のおまえには悪いが、俺は弥生があのくそまずい『緑色の物体』の次に苦手なんだ。たとえ刺し違えてもあいつと結婚なんてしない」

「……え?」

「この際だから言っておくが、こう見えて俺はこれまで誰とも婚姻関係になったことはないぞ。恋人とやらも作ったことはないし、こうして許嫁が出来たのもはじめてだ」


 翡翠は大きくため息をついて足をとめると、どこか複雑な様子で私を見下ろす。


「それとも真澄は俺がそんなふしだらな奴に見えるか? 仮に弥生と結婚していたら、俺はおまえの祖父になるわけだが……それを望んでいるとでも?」


 ちょっと待って。前半はさておいて、後半は有り得ない。ぶんぶんぶんと首を振り否定すると、翡翠は少し顔を緩めて「そうだろう」と私の頭をぽんと撫でてくる。


「突然現れてこちらの世界に誘った俺に説得力はないかもしれんが、俺は真澄に惚れてるんだ。弥生との契約は関係なく……あくまで俺自身が真澄と共にいたいと思ったから、あの時おまえをかくりよへ誘った。そこは勘違いしてもらいたくない」


 あまりに真っ直ぐな言葉を向けてくる翡翠の顔は、真剣ながらもどこか寂しげで。永遠桜に感じたものとひどく似たその表情に、私は胸の奥を強く締め付けられながら顔を伏せる。

 こういうとき、上手く流せる術が欲しい。この神さまの言葉は、少々直球すぎる。

 だけど、翡翠も、ちゃんとわかっているのだ。

 神さまと人の子。

 ──与えられた生の時間が、あまりにも……途方にもないほど違いすぎることに。