「真澄のブログは良い。心が浄化された気になる。無理にとは言わないが、今後もぜひ続けてくれ。一読者として応援しているからな」
「それは良いけど……でもどうして? 特に面白くもないのに」
「俺にとっては面白いのさ。──はじめは、ただ真澄の近況を確認するために見始めただけだったが、いつの間にかハマってしまってな」
おかしそうにくつくつと笑う翡翠は、なんとなくいつもよりも伸び伸びしているような気がして、私もつい微笑んだ。
「ところで、なんでブログなんだ? 今どきはSNSがたくさんあるだろうに」
「うん、神さまがSNSとか言わないでほしいな。なんかイメージ崩れちゃう」
そりゃあ、言っていることはもっともだけど。
「……とくに、これといったこだわりがあるわけじゃないけどね。ただ、誰かとコミュニケーションをとりたくてやってるわけじゃないから。自己満足、みたいなものだし」
「そういうものか」
「そういうものだよ」
六月に入り梅雨の時期が近づいているからか、最近は空模様が怪しい日が続いていたけれど、今日はからりとした快晴だ。暑すぎず寒すぎない、心地よい風がさわやかに流れて、通りを続く灯篭を揺らしている。
うつしよと季節の流れが変わらないのは、かくりよに来て最初にほっとしたことだった。
はるか彼方にうっすらと見える永遠桜は、たとえ冬になっても散ることはない。
一年中──いや、名前の通り永遠に近い時間、あの大樹は満開の花びらを纏い咲かせる。
見惚れてしまうほど美しいのに、永遠と聞くとどこか寂しくも思えてしまうのは、きっと人の子だけなのだろう。儚く散ることが美徳なんて、少しおかしいけど。
「そういえば、翡翠とこうやって二人きりでお出かけするの初めてだね」
「……本当は、もっと色々なところに真澄を連れて行ってやりたいんだが、この弥生通りを離れると俺の加護がきれるから、今はまだ不必要に出歩かせたくないんだ。窮屈か?」
「う、ううん、全然。弥生通り広いし、大抵のものは揃うから満足してるよ」
今はまだ、という言葉にあやうく反応してしまいそうになって、私は熱を持った頬を隠すように耳にかけていた髪を崩す。べつに不満を伝えようとしたわけじゃないのにな。
かくりよで暮らすための最大の条件は『翡翠と結婚すること』。